第31章 ご挨拶
夜月家と冨岡家はさほど離れておらず、しばらく歩いていると義勇の生家が見えてきた。
「あれだ」
義勇が実家を指さす。琴音の家ほど大きくはないが、立派な平家だった。
義勇は家には行かずに路地を抜け、やや拓けた場所に行く。そこに大きめの墓があった。
「わぁ、立派なお墓」
「親戚が建てた」
「そっかぁ。ご親戚、お金持ちだったのかな」
「呉服屋だ」
「へぇ」
二人で墓を掃除していく。
墓は長く放置されていたのだろう。雑草が茂っていた。
「お前が行きたいと言わなければ、俺はここへは来なかった」
「来たくなかった?」
「そんなことはない。なんとなく来ることがなかっただけだ」
ブチブチと草むしりをしながら義勇が話す。
あらかた抜き終わると墓石をこすり洗いして汚れを落としていく。
冬の水は冷たくて手がかじかんだが、二人は本日ニ基目の墓掃除に勤しんだ。
掃除が終わると、花を供えた。
夜月家には白が基調の花を、こちらには赤が基調の花を供える。仏花ではなく、綺麗な花束。琴音がそうしたいと言って選んだ。
二人並んで手を合わせる。
義勇さんのお父様、お母様
夜月琴音と申します
義勇さんにはいつもお世話になっております
義勇さんがまだ小さい頃にお亡くなりになられたと聞きましたが、彼は立派な殿方に成長されましたよ
とても優しくて、強くて、素敵な方です
彼は今、私と共に生きていくことを望んでくれていて、私も同じ思いです
私達はこれから命をかけた大勝負に挑みます
どうか、どうか、義勇さんをお守りください
私も、あなた方にお会いしたかったです
お会いして、直接申し上げたかった
あなた方の息子さんを、心から愛していますと……
手を合わせて、琴音は心の中で義勇の両親へと話しかけた。