第31章 ご挨拶
二人は墓所を後にした。
琴音は、義勇がちゃんと先のことも考えてくれていることがわかって嬉しかった。自分を嫁にと本気で考えている。
もちろん、前から『嫁にする』と言われていたし、適当に考えているなどと思ったことはなかったが、こうして亡き両親にも挨拶をしてくれたことに感謝をした。
「実家に寄るか?」
「ううん」
「いいのか?ここから近いだろう」
「……入れないの、辛くて。もう何年も経つのに。情けないね」
琴音は俯いた。
生家は鬼の襲撃現場である。事件以後、片付けなどで育手と共に何度か行ったことはあるが、いずれもパニックや過呼吸を起こして酷いことになった。
お墓という別建てされたところには心静かに居られるものの、やはり現場そのものには未だに平静では踏み込めない。
幸せな思い出が沢山溢れているだけに、生家は今、その全てを失った辛い場所となってしまった。
「そうか」
義勇は詳しくは聞かなかった。
「そのうち行けるようになるといいなぁ」
「そうだな」
「義勇さんと一緒なら、行けるかも」
「鬼を倒したら行こう」
「はい」
「大丈夫だ。俺が支える」
「ありがとう、義勇さん」
琴音は義勇の腕にしがみついた。しっかりと寄り添い、支えてくれる義勇。
一緒ならきっと大丈夫。琴音もそう思えた。
頼ってばかりで申し訳ないと思いつつ、義勇の存在を心からありがたく感じた。
二人は冨岡家の墓に向かって歩き始めた。