第31章 ご挨拶
途中で花を買い、夜月家への墓所へと向かう。花は柄杓と共に、義勇の持つ手桶に入れられている。
生家に程近い霊園に夜月家の墓はあり、二人はそこへ向かった。
雑草を抜いて小ぶりな墓石を掃除した。義勇も琴音を手伝う。
「来るの、久しぶり」
「そうか」
「去年のお盆は来れたっけな……」
多忙な鬼殺隊。なかなか故人に想いを馳せるなんてことは出来ないのが現実だ。
掃除が終わると、二人は墓の前にしゃがんで花を供えて手を合わせる。線香の煙が静かに二人を包んだ。
無言の時間が流れた。
義勇がペコリと頭を下げたので、琴音が振り向く。
義勇は無表情のまま墓石を見つめていた。
「お父さんとお母さんに、話しかけてくれたの?」
「琴弥さんにも」
「……ありがとう」
「ご両親には直接言いたかった。琴音を俺にください、と」
「義勇さん」
「お前は夜月家の大事な一人娘だからな」
義勇は静かに立ちあがる。
「夜月家はもう誰も居ないんだな」
「そうね。私だけ」
「いいのか」
「え?」
「お前を冨岡にしてもいいのか」
義勇はじっと琴音を見た。
琴音は初め、義勇が何を言っているのかわからなかった。首を傾げる。
「俺が、夜月に……」
「あ、そういうことか。何言ってんの。義勇さんだって冨岡家の長男でしょ」
「俺には親戚がいる。交流はないが。血縁者はいるんだ。もしお前が望むなら……」
「いいの」
「……………」
「夜月は私でお終い!それでいいの」
「琴音」
「お兄ちゃんが死んだ時点で決まってたのよ。女の私に家を守る義務はない」
琴音もゆっくりと立ち上がる。墓石をそっと触りながら話しかけた。
「お父さんもお母さんも、そんなこと望んでない。私の幸せだけを願ってる。……ねぇ、そうだよね?」
「…………」
「だからきっといつか、私を冨岡琴音にしてね。それが私の幸せだから」
「ああ」
義勇は琴音の手をぎゅっと握った。墓石に向かって深々と頭を下げる。
「祝言の前に、またご挨拶に来ます」
隣で琴音も頭を下げた。