第31章 ご挨拶
義勇の家に帰宅をして、それぞれお風呂に入った。
寝間着に着替えると同じ布団に入る。
「今夜は抱かない。安心しろ」
まだ体調が万全ではない琴音を気遣って、義勇は手を出してこなかった。
布団の中で寄り添い合い、彼女の髪を優しく撫でる義勇。
琴音の髪は、以前よりやや色素が抜けて栗色の度合いが増してきたように思う。髪も血液から出来ていると聞いたことがある。血が減ったからか、と義勇は思った。
「明日は無理だが、明後日とその次は鍛錬を休みにしようと思う」
「え?」
「墓参りに行くぞ」
「いいの?」
「ああ」
「ありがとう」
「いや。俺も、お前の両親に挨拶がしたい」
挨拶……
なんだかそう口にすると、突然気恥ずかしさが込み上げてきて二人はなんとなく目をそらす。
「うちと義勇さん家って近いの?」
「遠くはないはずだ。俺は結納で行ったきりだが、琴弥さんはよくうちに来ていた」
「そっか。ふふ、楽しみ」
琴音は嬉しそうに笑った。
二人でお出かけするのは久しぶりだ。おそらく隊服でしか出かけることは出来ないが、それでも胸が踊った。
「たくさん歩く。大丈夫か」
「うん!嬉しい。ありがとう」
「ああ」
嬉しそうに頬を染めて、義勇の胸元に頬を擦り寄せる琴音。義勇は琴音をそっと抱きしめた。
蝶屋敷ではここまでくっつくことができなかったので、久しぶりに琴音と身体を密着させることで義勇の心が跳ねた。
しかし、今夜は抱かないと決めたので気分を落ち着かせていく。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
これ以上は我慢が出来なくなる可能性があるので、義勇は早々に目を閉じた。
琴音も安心しきった顔で眠りにつく。
寒い夜でも、二人の布団は温かかった。