第4章 好きなもの
煉獄家へと帰ってきた琴音。
「只今戻りました」
玄関をくぐって声をかける。
草履を脱いでいると、バタバタと廊下を駆けてくる足音がした。
「琴音!おかえり!怪我はないか」
「杏寿郎さん。ただいま。大丈夫だよ」
「戻りが遅いから心配したぞ」
「ごめんごめん。同期の子とご飯食べてたの」
「そうか!仲間との交流は大事だからな」
安心したのか、少年は人懐っこい笑顔をむけて琴音の肩にぽむっと手を置いた。
煉獄杏寿郎、十六歳である。昨年の選別を受験し、鬼殺隊士となった。その圧倒的な強さで、階級を三段飛ばしくらいの速度でどんどん駆け上がっている。
「怪我がないのなら、今から道場で鍛錬しよう」
「あ、兄上!琴音さんは任務明けでお疲れなのですよ?休ませてあげないと」
早速稽古に誘う杏寿郎を、弟の千寿郎が慌てて止めた。まだ幼いが、利発な子どもである。
「あはは。ありがと、千君。そうだね、お風呂入って少し寝たいかな」
「そうか……、わかった」
「杏寿郎さん、起きたらやろ!」
「よし!夕方になったら道場に来てくれ」
鍛錬大好き二人組が楽しそうに笑い合うのを、千寿郎は眩しそうに見ていた。
自分も二人のようになりたい。そう思った。
夕方になると、道場から竹刀の合わさる音が聞こえ始めた。それは晩御飯まで途絶えることはなかった。
晩御飯の時間になると、琴音は煉獄槇寿郎の部屋に膳を持って行く。
「師範、お食事をお持ちしました」
部屋に向けて声をかけるが、返事はない。「……失礼いたします」そう断わりを入れて障子を開けると、酒の匂いが鼻についた。
彼女は入ってすぐのところに膳を置き、「後程、下げに参ります」と頭を下げて槇寿郎の部屋を後にした。