第30章 好きと苦手
夕餉を食べると、琴音が眠そうにした。
失われた体力がまだ回復しきっていない琴音。義勇は膳を持って台所に行き、自分で洗おうとした。
「え、義勇さん!私やるよ!」
「いい」
「駄目だよ。そんなことさせられない」
「なぜだ」
「だって……」
慌てて自分が洗おうとする琴音を義勇が止めて、脇にある椅子に座らせた。
「皿くらい洗える」
「いや…でも……」
「ゆっくりしてろ」
「お皿、全部割れちゃう」
皿の心配をしてたのかと義勇は驚く。
てっきり、男に家事をさせたら駄目だとかのしきたりを気にしているのかと思っていた。
「割らない。出来る」
義勇はそう言ったが、やはり心配な琴音は隣に立ち、二人で後片付けをした。
「ふらついている」
「ちょっと貧血気味でね」
「貧血?」
「…………月のもの、来たから」
やや言い辛そうに、琴音が義勇に伝える。
義勇も少しの動揺を見せたが、そこは大人として何でもないという態度をとる。
「そうか。無理するな」
「うん」
二人は皿を洗っていく。
義勇も流石に皿洗いくらいは出来るようで、危なげなく洗っていた。
「良かった」
「そうね」
「心配していた」
「私も。今月ちょっと遅れたし。ホッとしたよ」
琴音は隣の義勇を見上げながら笑った。
義勇は相変わらずの無表情。綺麗な顔をしながら皿を洗っている。
本当に、何をさせても絵になるなぁ……
琴音はそんなことを思ったが、ふと気付くと、彼の部屋着の袖は濡れていた。くすっと笑って、キュッと袖をまくってやった。
新婚さながらの甘い雰囲気の中、皿洗いはすぐに終わった。
「ありがとう」と笑う琴音の顔は青白い。
彼女の不調の原因がわかって、義勇は労うようにぽんぽんと彼女の頭を撫でた。
しばらく抱けないな……
ちょっぴり残念に思いながらも、妊娠の可能性がなくなったことに安堵した。