第29章 そっと、ずっと
翌日、夕方前に琴音は義勇の家に帰ってきた。
義勇はまだ稽古中だったが、気配に気付いて心が踊った。勿論顔には全く出さないため、隊士たちは気が付かない。
その日の鍛錬をしっかりと務めて隊士を帰した後、義勇は琴音の部屋へと走った。
慌ただしく戸を開けると、そこにはちゃんと琴音がいた。
「稽古お疲れ様です、義勇さん。……只今戻りました」
少し照れくさそうに小首を傾げて笑っている。
義勇は彼女の存在を確かめるように、彼女に駆け寄って両手でガバッと抱きしめた。琴音もそっと義勇の背に手を回す。
焦っている義勇を落ち着けるために、琴音は宥めるように義勇の背中を擦った。
大丈夫だよ、もうどこにも行かないよ、と言われているような気がして、義勇もふわりと体の力を抜いて琴音に少し寄りかかった。
互いの体温を分け合いながらしばらく抱きしめ合う。
ずっとそばにいたい。
こうして、すぐに触れられる距離で。
ささやかな日常でいい。
この先もずっとこの娘と共に生きていきたい。
ずっと……ずっと…………
「おかえり、琴音」
耳元で嬉しそうに囁かれた義勇の優しい声が、琴音の心に響いた。