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言の葉の裏【鬼滅の刃】冨岡義勇

第29章 そっと、ずっと


琴音はしばらくえぐえぐと泣き続け、もはや義勇の隊服は琴音の涙でぐしょぐしょだった。


「……あんみつ」

泣き疲れた琴音が、鼻をすすりながらそう言った。義勇は琴音を抱きしめる手を少し緩めた。

「新しく出た、一等高いやつ」
「わかった」

二人の声色が柔らかいものになった。

「あと、お団子」
「うん。他は?」
「……簪。キラキラしてるやつ」
「ああ。他には?何でも言え」

琴音は涙で一杯になっている目で義勇を見上げた。二人の視線が合う。

「……もう絶対に油断しないで」
「承知」
「他の女の子に、口付けなんてされないで。ちゃんと避けて。私だけの……義勇さんでいて」

やっと名を呼ばれて、義勇は安堵した。心が暖かくなる。
ほっとしたらなんだか力が抜けた。琴音を抱き寄せて、自分も少し寄りかかった。

「約束する」

目を閉じて、琴音を落ち着かせるようにそう言った。


義勇は琴音の頬へと手を伸ばした。涙で濡れている彼女の頬を親指で拭う。

そして、そっと唇を近付けた。



しかし、「嫌っ」と言ってぷいっとそっぽを向いてしまう琴音。まだ拗ねている。


「琴音」
「嫌!」
「…………」

義勇は眉毛を下げるが、琴音は義勇の腕からするりと抜け出した。口付けを断られたのは初めてで、義勇も少なからずショックを受けた。


琴音は義勇から離れて、ごそごそと腰の布袋をあさる。
取り出した小瓶の中身を懐紙に染み込ませて、それを義勇の口にあててグイグイと拭きはじめた。

消毒液の匂いが義勇の鼻を突いた。


義勇の口を拭きながら、ぽろぽろと涙を溢す琴音。
初めは何をされているのかわからずに身を固くしていた義勇も、意味を理解して大人しく口を拭かれた。


泣きながら腕を下ろした琴音に、義勇が声をかける。

「消毒は済んだか」
「……うん」
「お前の気も済んだか」
「うん」

そう言って、義勇は彼女の顔を覗き込む。

「沢山泣かせてすまない」
「もういいよ」

琴音の頬を、義勇の大きな両手がそっと包み込んで涙を拭う。

義勇がゆっくりと顔を近付けた。琴音は今度は逃げなかった。

二人の唇が重なる。
消毒液の匂いがした。


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