第29章 そっと、ずっと
「…………夜月と話をさせてくれ」
「断る」
「お前になんの権限がある」
「琴音に頼まれているからだ。もしお前が来たら追い払え、とな」
「…………」
睨み合う二人。
「お前、琴音と何があった」
「……?夜月から聞いていないのか?」
「あいつは何も言わない。鍛錬を手伝うから泊めてくれとだけ言った」
「…………」
「何があったのか聞いても、『自分が悪い。顔を合わせ辛くなったから』の一点張りで、口を割らねぇ」
義勇は驚いた。
この後に及んで琴音は義勇を庇っていた。義勇を悪者にすればいいのに、それをせずに一人で抱えている。
義勇はいたたまれなくなった。
「琴音は自分が悪いと言うが、俺はお前が何かしたとしか思えねぇ。あいつは自分が悪いと思ったらとっとと謝るだろうからな。うちに逃げてくるはずがねぇ」
「…………」
「そうだろう。違うか」
「…………」
「お前、何をしたんだ」
「…………」
「黙ってんじゃねぇよ。なんか言え」
喋らない義勇に、明らかに苛ついている宇髄。義勇は宇髄を見て、また「夜月と話をさせてくれ」と言った。
宇髄は、義勇に負けないくらいの端正な顔を歪ませて少し考え込んだ。
「あいつが嫌がる。きっと会わねえだろうな」
「……『秘薬』を持ってきたと夜月に伝えてくれ。会ってくれたら直接渡す、と」
この展開になるとわかっていた義勇は、早くも切り札を使う。
だが、いきなり宇髄は気色ばんだ。
「はぁ?何言ってんだお前!」
「なにがだ」
「なし崩しに仲直りしようとしてんのかよ!」
「なし崩し?なぜだ」
「『媚薬』ってことはそういうことだろがっ!体に物言わせてって……見損なったぜ!」
『秘薬』と『媚薬』。
宇髄が聞き間違えてるのだと義勇は気がついた。流石の義勇も焦りだす。媚薬などとんでもない。
「なっ!違っ…違う!『秘薬』だ!ひ、や、く!」
「ひやく……?」
「琴音の育手から預かってきた」
「琴音の?」
「そうだ。媚薬など俺が使うはずないだろう」
「まあ、そりゃそうか」
宇髄の誤解を解けて、義勇は安心した。