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言の葉の裏【鬼滅の刃】冨岡義勇

第29章 そっと、ずっと


昼頃、隊士たちがやってきた。
その中に昨日の女隊士もいた。

義勇の稽古は何回参加してもいいものではある。現に、納得のいくところまでやりたい者は何度も通っている。

しかし、義勇はこの女性を見るなり稽古を断った。
他の隊士を先に稽古場に通し、女性と話をする。


「お前は帰れ」
「何故ですか。希望する隊士は皆、鍛錬を受けられるはずです」
「わかっているだろう」
「昨日のご無礼でしたらお詫びいたします」
「いらん。もう俺に関わるな」
「…………」
「帰れ」

義勇は冷たく突き放す。

「嫌でございます」
「…………」
「お側に置いてください」
「置かない」
「私は冨岡様のことが」
「帰れ」

義勇は女性隊士に背を向けた。

「貴方をお慕い申し上げております!」

その背中に向けて女が叫ぶように言った。

「……俺には心に決めた女がいる。お前の気持ちに応えることはない」
「え」
「足、しばらく無理をするな」

義勇は女を振り向くことなくそう言って、門を閉めた。女性は涙を流しながらとぼとぼと去っていった。


水柱は色恋に無縁。完全にフリーであるという、義勇に焦がれる多くの女性隊士に勇気を与えていた一説が打ち砕かれた。


ふう…と息を吐き、義勇は稽古場に向かう。



昨日、他の隊士に休憩を与えて彼女の手当をしているとき、不意に口付けをされた義勇。

琴音以外の女と接吻するのは初めてだったので、あまりに驚いてしまい一瞬動けなかった。

琴音は自分から唇を合わせてくることなど滅多にないので、世の女がそんな積極的な行動をしてくるとは夢にも思っていなかった。
女が自分に好意を寄せていることはわかっていたのに、完全に油断をした。

ただ、義勇も二十一の健全な男なわけで。琴音とは違う香りや唇、首に巻き付いた女の腕に心臓が跳ねてしまったのも事実であった。咄嗟に振りほどけなかったのは、驚きだけではなかったのかもしれない。

だが、そこに恋情は全く無かったと、それだけは自信を持って言える。



義勇はふるふると頭を振った。

……今は雑念は払え。しっかり仕事をしろ

自分に言い聞かせて稽古を始めた。


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