第4章 好きなもの
楽しそうに商品を見る琴音。
義勇にはどれがいいのかさっぱりわからない。
とにかくこの可愛らしい空間の居心地が悪くて、彼の整った顔に冷や汗がたらりと流れる。今すぐにでも店を出たいと思う。とりあえず繋がれた手をそっと離した。
「んー……、これ!」
琴音が一つの紐を手に取る。鮮やかな水色の細い紐だ。紐の終りには、綺麗な花があしらわれた小さな紫色のトンボ玉がついている。
あまりにも即決過ぎて驚く義勇。女の買い物は長いのが定石ではないのか。
彼女は今つけている結紐の上に乗せてみて、「どう?」と義勇に聞いてきた。
「俺に聞かれても……」
「変じゃない?」
「変ではない」
「可愛い?」
「………わからん」
琴音は手の中の紐をもう一度見る。
周りの紐と見比べて、「やっぱりこれ」と言い切った。
にこにこと紐を見つめる。
義勇は彼女の手の中から紐を取り、店台へと向かった。義勇の後ろを追いかけながら、琴音は「ありがとう、お兄ちゃん」と声をかけた。
義勇が紐を買い、「仲良しだねぇ」と店主に言われながら二人は店を出た。
直ぐ側の丸太に座り、早速紐を付け替えようとする琴音。見るからにご機嫌だ。
髪を解き、新しい紐を口に咥えながら両手で束ねていく。彼女の小さな手が髪を集めていくのを見ながら、義勇はふと思った。
「貸せ。やってやる」
「へ?へひふの?ほみおあ」
「……何を言ってるのかわからない」
義勇は彼女の口から紐を奪い、後ろ側に座って彼女の髪を束ねていく。
「髪の毛、出来るの?冨岡」
「………出来る」
――…昔。もうだいぶ昔。
姉の髪を結ってあげていた。
『ありがとう、義勇。上手ね』
そう言って笑いかけてくれた姉は、もういない。