第4章 好きなもの
蕎麦屋を出ると、嬉しそうに歩き出す琴音。
任務での疲れが吹き飛んだかのような、軽い足取りだ。
「冨岡!こっち」
「…………」
「小間物屋さんにいくよ」
「ああ」
女子との買い物は面倒だ。姉の付添でも辟易したことを思い出す。
しかし、自分の隣でにこにこと笑顔溢れさせる琴音を見ていると、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。
義勇は彼女の頭で揺れている紐を見た。確かに己が使っているような、単なる紐とはまるで違うものだ。
こうして知った上で見なければ、こんな紐を付けていたことなど全く気が付かない。女子の小物になど、今まで興味をもったことすらなかった。
琴音の後ろを無言で付いていくと、雑貨が多く並ぶ店に付いた。琴音は躊躇なく入っていくが、義勇は店の外で足を止めた。
「……ん?冨岡?」
「………」
「おいでよ」
「……………」
男は入りにくい。
黙って立っていると、手を掴まれた。そのまま手を引かれ、店に連れて行かれる。
「一緒に来てよ。選んで」
「……俺にはわからない」
「わからなくても、見るの!冨岡は何色が好き?どんなお花が好き?」
手を繋いだまま、義勇に無邪気に笑いかける琴音。戸惑いながらも、それを表情には出さず、とりあえず付いていく。
「特にない」
「じゃあ服とかどうやって決めて買ってるのよ」
「適当だ」
「ええー?あり得ない!」
にこにことしながら琴音は店内を見て回る。繋がれた手をどうしたものか迷っていると、店の人から声をかけられた。
「お嬢ちゃん、兄さんと買い物かい?いいねぇ」
声の方に顔を向けると、おばさん店主が店台に頬杖をつきながら琴音達を見ていた。
「いや、」
義勇が否定しようとするが、それより早く琴音が嬉しそうに答える。
「えへへ、そうなの!お兄ちゃんが買ってくれるって」
「…………」
義勇は少し驚いて琴音を見るが、彼女は少し悪戯っ子のような顔をして笑っているだけだ。
「そうかい。優しい兄さんだね」
「うん!」
「ゆっくり見ていきな」
「ありがとう」
琴音は髪飾りなどがおいてある所へ義勇を連れていき、目を輝かせて覗き込んだ。