第29章 そっと、ずっと
翌日からも義勇の柱稽古は続いた。
義勇の稽古中、琴音は部屋で大人しくしている。こっそり腕立て伏せでもしているのが見つかれば猛烈に怒られることがわかっているため、本を読んだり薬を作ったりして過ごしていた。
その頃稽古場では。
女性隊士に絡まれて、義勇は少し困っていた。
「冨岡様、足の運びを教えて下さいまし」
「教えている」
「もっと、細かく」
「人によって細かい動きは異なる。自分のやりやすい運びを見つけろ」
今、教えているのはこの女性含めて三人。
男達は義勇に言われたことを失敗しながらも繰り返し黙々と鍛錬している。
この女性だけが、何かと義勇に擦り寄ってくるのだ。
歳は琴音と同じくらいだろうか。美人という部類に入る顔立ちをしている。
どうやらいつかの任務で助けたことがあるらしく彼女から礼を言われたが、義勇は全く覚えていなかった。
当然のことながら、彼女のことも他の隊士たちと同様に接する義勇。女性隊士も悪い子ではないのだろう。一生懸命鍛錬はしている。
だが言葉や行動の端々で、絶対に己のことを好いているとわかった。流石に義勇とてそれくらいのことはわかる。
ややこしい事にならなければいいが、と思った矢先、女性隊士がひっくり返った。足の運びを気にするあまり、足がもつれたようだ。
「……、っ!」
「捻ったか」
「大丈夫です、このくらい」
「座って待っていろ」
義勇は立ちあがって稽古場を出ていく。部屋に戻って棚をあさった。
「どうしたの?」
音に気付いた琴音が顔を出した。
「怪我人?診ようか?」
「いや、いい。たいしたことではない」
義勇は包帯と冷湿布を取り出して稽古場に走っていった。
確かに、琴音と義勇が共に住んでいることを一般隊士は知らない。自分が出ていけば面倒なことになると琴音も思った。
ただ、怪我人ということが少し気になって、琴音は気配を消してこっそりと稽古場に見に行った。状況によっては手助けができるかもと思ったのだ。
しかし、琴音が稽古場で見たのは衝撃の光景だった。
稽古場に座る義勇と女性隊士。
二人はくっついて、口付けをしていた――…