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言の葉の裏【鬼滅の刃】冨岡義勇

第29章 そっと、ずっと


晩御飯を共に食べて、ゆっくり夜を過ごす。

琴音は座椅子に座って本を読む。
義勇は刀の手入れをしていた。

静かに時が流れた。


刀の手入れを終えた義勇が琴音に視線を向けた。彼女はそれに気付かずに熱心に本を読んでいる。
義勇は無言でじっと琴音を見つめる。パラリ、パラリ、と彼女がページをめくる音だけが部屋に響いた。

不意に琴音が「くしゅんっ」とくしゃみをした。部屋の中の空気が変わる。

「寒いか」
「ううん、平気だよ」

義勇は琴音のお腹辺りまで掛かっている掛け布団を胸元まで引き上げてやる。
ずびと鼻をすすりながら「ありがとう。大丈夫だよ」と琴音が笑った。

「熱心に読んでいたな」
「え、見てたの?」
「しばらくな」
「やだ、恥ずかし」

見られていたことを知って、頬を染める琴音。

「医学書か」
「うん」

琴音は栞を挟んで本を閉じ、義勇に渡してやった。本の開きからして予想はしていたが、それはやはり洋書で義勇には読めなかった。


「これを読めるのは、隊内ではお前だけだろうな」

模様のようにしか見えない頁を、ぱらぱらと見ていく義勇。

「俺が知っているのは……『すまいる』と『らぶ』だけだ」
「ちゃんと覚えてる!凄いねぇ」

「『早く元気になれ』は何と言う?」
「Get well soon.」
「げっと、うぇる、すーん…」
「そう」

「げっと うぇる すーん 琴音」

そう言って、義勇は琴音を抱きしめた。
琴音は義勇の腕の中で笑う。

「Thanks for your concern, I appreciate it.」
「…………」
「ありがとう、早く治すねって言ったの」
「長文は難しい」

日本語もろくに喋らない男が、異国語を話そうとする姿がちょっぴり面白くて琴音はまた笑った。


義勇は自分の布団を琴音の部屋へ運び、くっつけて敷いた。しっかり寝かせるようにとしのぶから指導が入っているので、しばらくは別々の布団だ。もちろんまぐわいも厳禁である。

「おやすみ」
「おやすみなさい」

声を掛け合うと二人は手を繋いで眠った。


Get well soon…

義勇は夢の中で琴音に何度もそう呼びかけた。


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