第28章 女の子だって
帰り道、少しゆっくり歩く琴音。義勇はそれに合わせてくれた。
「冨岡」
「なんだ」
「私、今日蝶屋敷行って、最後の毒を体に入れてくる」
「今から?」
「夕方には行きたいな」
「…………」
「迷ったけど、やっぱりもうひとつ入れておきたいのがあるの」
「……もう止めておけ」
「ここまでしたの、無駄にしたくない」
「いつ戦いが始まるかわからないんだ」
「…………」
「へたばっていたら意味がないと言ったのはお前だ」
「そうだけど」
琴音は俯く。
「お前がそこまで体を張る必要はない」
義勇がそう言うと、琴音はピタリと足を止めた。
「なんで?」
「……?」
「私が、女だから?」
「そうだ」
「女の子だって、命を懸ける!」
「夜月」
「命を懸けて戦って、それで死んでも全く後悔はない!」
「…………」
「私は毒を取り込んで抗体を作る!そして、有効な血清を作るの!これは私にしか出来ない、大切な仕事だと思ってる。女の子だって……戦うんだから」
「わかった。すまない」
義勇が申し訳無そうに謝った。
彼が心配しているからこその発言だということは、痛いほどにわかっている。だが、琴音もここまで準備してきたことを止めるつもりはない。
「いつ家に帰ってこれる」
「早くて四日、五日後……かな」
「ならば四日で帰ってこい」
「四日だとまだへたばってるかも。ちょっと強めのやつ入れようと思って」
「迎えに行く」
義勇は琴音のやりたいことを止めずに、その中で自分の望みを伝えた。
「療養なら家でもできる」
「……まあ、また状況をみて連絡するよ」
「俺がお前をちゃんと休ませないとでも?」
「……………」
「警戒しなくても襲わない」
「……どうだか」
琴音が薄く笑う。案外信用されていないことがわかり、義勇は頭を掻いた。
「俺は女は大切にする。無理はさせない。だからちゃんと戻ってこい。出来るだけ早く」
義勇は琴音の手を取った。
「わかったよ」
琴音は笑いながらその手を握り返した。