第28章 女の子だって
琴音は一応目を開けて、義勇を見た。
「大ちゃん……?」
「お前の…知り合いだろう」
「……大ちゃん」
とぼけているようには見えないが、琴音はぼんやりとしている。
義勇はイライラとした。
「どこの男だ。言え」
「義勇さん?」
「どんな関係だ。隠さず答えろ」
明らかに怒りを滲ませながら布団の中で詰め寄る義勇に、琴音もようやく目が覚めた。大きな目をぱちぱちとさせた。
「もしかして、私、寝ぼけて呼んだの?」
「……そうだ」
「あのね、大ちゃんは……」
「…………」
義勇は不機嫌丸出しで琴音を睨む。
睨まれながら、琴音は体を起こして人形棚を指さした。
「あの子」
彼女の指先を辿り、義勇はぽかんとした。
「白兎の大ちゃん」
「うさぎ……」
「正式名称は……大福」
「大福」
彼女があの白兎を側に置いて仕事をしている様子を義勇も見ていた。最近のお気に入りなのだろう。
完全なる勘違いに、義勇の心拍数はさっき以上に爆上がりした。
「あはは。男の人だと思ったのね」
「…………」
「私が浮気してるとでも思った?」
「…………」
義勇も彼女の隣でムクリと体を起こした。赤くなった顔を見せないように俯きながら口を尖らせている。
琴音はそんな義勇を見て、笑いながら抱きついた。
「馬鹿ね。私があなた以外の男の人を見るわけないでしょ」
義勇も彼女の腰に手を回して抱きしめた。
「……いつも俺以外の名を呼ぶ」
「そうなの?ごめんね」
「…………」
「不安にさせちゃったね」
「…………」
「安心して。そんなことは絶対にありえないから。私が好きなのはあなただけ」
「………ああ」
もし、彼女に自分以外の男の影が現れたら、おそらく自分は正気ではいられない。
今回のことでそれがよくわかった。
聞いたとき、血が沸騰しそうだった。もし現実にそんなことが起こったら、下手したら相手を殺しかねない。
狂気ともとれるそんな感情を己の中に自覚して、自分が思う以上に、この少女への愛が大きいことを知った。