第28章 女の子だって
翌朝義勇が目覚めると、いつも通り琴音はまだ寝ていた。
違うのは、いつも義勇にくっついているのに今朝は背を向けていたこと。たったそれだけのことなのに、なんとなく寂しい気がした。
義勇は琴音の肩にそっと手をかけて、体をころりと転がして自分の方を向かせた。
「う…ん……」
もぞりと小さく身じろぎをするが、起きる気配がない。
が、琴音はゆっくりと手を伸ばして義勇の寝間着に触れた。そしてそんな彼女の口から発せられた寝言は。
「ん…、大ちゃん……」
琴音は、はっきりとそう言って義勇にすり寄ってきた。義勇の表情が固まる。
……………
誰だ、そいつは
大ちゃん。
それは男の名だろう。大介、大吉、大二郎……
聞いたことのないその名に、驚きともやもやが込み上げた。
同期隊士にそのような名の者はいたか。わからない。皆、名字しか知らない。
琴音が浮気などするはずがない。しかし、自分は女心などまるでわからない。会えないときも多い。
まてよ、もしや、いやそんなばかな、でも……
義勇の頭は『大ちゃん』によって至極混乱した。鼓動が激しく、それなのに手足の体温が一気に冷えた気がした。
腕にくっついている琴音をじっと見つめた。
「おい、琴音。起きろ」
義勇は琴音を起こすことにした。確認せねばならない。
「起きろ」
「……んー……、やぁだ」
「嫌だじゃない。起きるんだ」
万一浮気だとしたら、自分はどうするのだろうか。
「……眠い」
「一度起きろ。話がある」
「…………んー…」
彼女を手放すのだろうか。果たしてそんなことが出来るのか。
「目を開けて俺を見ろ」
もしかすると、昔の許嫁や婚約者なのかもしれない。自分は琴音のことをあまり知らない。
「んー…、あれぇ、義勇さん……」
琴音は目を擦って起き始めた。まだ寝ぼけている。
「おはよう…ございます……」
「……おはよう」
義勇はいろいろな覚悟をして、琴音に尋ねた。
「……聞きたいことがある」
「なあに?」
「『大ちゃん』とは、誰のことだ」
もしかしたらこれで自分たちの関係は終焉を迎えてしまうのかもしれない。
それでも義勇は知らんぷりを出来なかった。