第4章 好きなもの
琴音と義勇が打ち解けてから一年が経った。
彼らは互いの技を磨きながら、懸命に仕事に励んでいた。
それは文字通り命懸け。
極度の緊張状態を続けた任務後には、琴音は人と会って話しがしたくなる。同期の隊士を誘ってご飯に行くことが多かった。
琴音は義勇を誘うこともある。人と関わろうとしない義勇も琴音の誘いは断らないことが多いため、同期隊士の間で「あの二人は付き合っているのか」などと噂が流れた。
「変な噂が流れだしたね」
「気にするな」
「別に、私は平気。冨岡が嫌じゃなければ」
「俺はどうでもいい」
二人は蕎麦屋に来ていた。任務終わりで鴉から情報を得て、近場にいた義勇を捕まえた琴音。お疲れ気味の義勇を半ば強引に昼の店へと連れて行った、というわけだ。
頼んだ蕎麦を待つ間、最近彼らの元にも届いた噂のことを話していた。
事実無根なその噂を、お互い気にしている様子はなかった。
「時に、お前。誕生日」
「あ、うん!明後日だよ!」
「十……」
「十三歳になります!」
へへへ、と笑う琴音。
「もう子どもじゃないでしょ?」
「まごうことなき子どもだ」
「えええ?!」
「何か欲しい物、あるか」
「へ?買ってくれるの?」
「……物による」
「流石、甲!お金持ち!……えー、何にしよ。いっぱいあるの」
「積み木か」
「もーっ!だから、子どもじゃないってば!」
文句を言いながらも、嬉しそうにあれこれ考え始める琴音。
その様子を見るとやはり子どもにしか見えない。
……こんな子どもと妙な噂をたてるなんて、あいつらもどうかしているな……
「決めた!」
「何だ」
「紐!髪の毛結ぶ、結紐」
「……そんなものでいいのか」
「あ、馬鹿にしたね、冨岡。あんたがしてるようなただの髪紐じゃなくて、飾り付いてるやつだよ」
「飾り?そんな紐があるのか」
「え、知らないの?ほら」
琴音が頭を後ろに向けると、彼女の髪を縛っている赤い結紐はキラキラしており、紐の先には小さな花が付いていた。