第3章 戦いの先に
「次の炎柱は、杏寿郎さんが継ぐよ」
「杏寿郎?」
「煉獄家の長男。いつも一緒に修行してるんだけどね、すっごく強いの!師範に言われてまだ選別は受けてないから、隊士じゃないんだけど」
笑いながら話す琴音。
「私が強くなったのなら、師範と杏寿郎さんのおかげだよ」
「住み込みで修行してるのか」
「うん!任務のない日は、ずっと杏寿郎さんと鍛錬してるよ。朝から晩までね。あはは」
「ふぅん」
「?……冨岡?」
義勇は、ふっと彼女から目を逸らす。
先程頭を撫でられたときは暖かかった心が、何故だか少しもやもやしたからだ。
急にムスッとしだした義勇を見て、あまり興味のない話をぺらぺらとしたのが良くなかったのかな、と琴音は反省する。
この話はもうやめようと切り上げた。
「私は追いかけるよ、冨岡を」
「…………ああ、追いついてこい」
「冨岡には負けない」
「俺も、負けない」
「今夜はここに泊まって、明日煉獄さん家に戻るよ」
「そうか」
「冨岡は全快するまでここに泊まるのかな」
「もう殆ど治ったが」
「無理はだめだよ」
「わかってる」
義勇の表情が通常に戻り、琴音はほっとする。共に晩御飯を食べて、琴音は自室に帰っていった。
義勇は、琴音が「あげる」とくれた水色の巾着を見た。巾着の中には『麻痺』『解熱』『吐気』などが書かれ、色分けされた薬包が入っている。
彼は、今は衣紋掛けにかけられている隊服のベルトに巾着の紐を縛りつけた。
……あいつが選別で一人生き残ったのは、この薬のおかげなのかもしれないな
義勇はぼんやりと考えた。
―――そう。
琴音の最大の強みは、育手に教え込まれた類まれなる薬学の知識。
『お前は、これで多くの隊士を救え』
彼女は、そう育手から言われている。
手当の場面に多く関わる隠の道を選ばなかったのは、剣の才も秀でていたから。
俺は、あいつに救われた隊士第壱号なのかもしれないな……
義勇は、巾着をじっと見つめながらそう思った。
しかし実のところ、義勇は“琴音に救われた隊士第十五号”くらいであり、残念ながらそれはただの勘違いであった――…