第26章 仲間
なほは部屋に入ると腕組みをした。
「琴音さん!またこんな所で寝てたのですね!もうっ」
「ごめんなさい」
「脈、戻りました?」
「うん。大丈夫。血ぃ採ってくれる?」
「………取りすぎです。出来ません」
「大丈夫だから。抗体値の変化が見たいの」
「最低限だけですよ」
「ありがとう」
なほが棚から注射器を出し、採血の準備をする。
「なほちゃん。私ちょっと帰るからさ、検査結果が出たらしのぶちゃんかアオイちゃんの鴉で報告してもらえるかな」
「わかりました。伝えておきます」
「お願いね」
なほは検査用に少しだけ琴音の血を採った。
「これは、しのぶ様にお渡しすればいいですか?」
「うん、ありがとう」
琴音がなほにお礼を言うと、なほは義勇にもペコリと頭を下げて部屋を出ていった。
「お待たせ。ごめんね、冨岡」
「……いや」
「片付けるから、ちょっと待ってて」
琴音はふらりと立ち上がって、机の上を片付け始めた。
義勇は少し戸惑った。
彼女はおそらくまた自分の体を使った実験をしている。
少しでも傍に居たいという己の身勝手な思いで、連れ帰ってもいいのだろうか。
研究設備のない自分の家では、彼女はやりたいことが満足に出来ないのではないか。
自分の存在が、彼女の足枷になってしまうのではないか……
目を細めながら俯いていると、義勇の口に金平糖が一つ入れられた。え、と思って顔を上げた。
「寂しかったよね、ごめんね」
片付けが終わった琴音が、申し訳なさそうな顔で義勇を見上げていた。
「いや、仕方ない」
「三日も経ってたの気が付かなかった。一日は師範の所に行ってたんだけど」
「煉獄のところか」
「うん。身体が鈍っちゃうからね」
研究室の中に、人形が一つ置いてあった。煉獄家から持ってきたのだろう。
「暴れていいのか。……体、辛いんじゃないのか」
「まあ、それでも動けなきゃ意味ないし」
「だが」
「いいの。今やれることを全部やるの」
そう言ってニコリと笑う琴音。
「冨岡との時間も、大切にしたい。お迎えありがとう」
「……うん」
「帰ろ」
「ああ」
義勇が風呂敷を持ち、二人は蝶屋敷を出た。