第25章 柱合会議
「嫌だったのね」
小さくこくりと頷く義勇。
「ごめんね」
「お前が悪いわけではない」
「無一郎くんは知らないのかもね。私達のこと」
「…………」
「あの子はまだ子どもだよ?甘えたいお年頃なのよ。義勇さんが心配するようなことは全くないよ」
「そうは見えない」
「そう?」
「子どもでも、男だ」
「まあね」
「背丈もお前より大きい。力もある。油断するな」
「はい」
ここでいろいろ言っても義勇は聞かないだろうから、琴音は大人しく返事をした。
安心させるようにヤキモチ焼きの恋人の手を握り返してやると、義勇はそれ以上何も文句を言わなかった。
手伝う、と言いながら、家事が苦手な義勇ははっきり言って厨房ではお邪魔な存在だった。やろうとしてくれるのはありがたいのだが、とにかく不器用。
本人は頑張っているのだろうが、全てが裏目に出ていた。
それでも琴音は注意したりせず、義勇の気持ちを尊重して簡単な作業の指示を出す。至極わかりやすい説明と笑顔、「ありがとう」の言葉を添えて。
盛り付けの際に、なんで?と思うほどお盆に溢した義勇だったが、琴音が上手くフォローを入れた。二人で楽しく晩御飯の準備をして、共に食べる。
しかしながら「片付けは私がやるからね」と先手を打って義勇を制し、もはや義勇も頷くしかなかった。
それぞれが風呂に入り、いつものように義勇が琴音の部屋に来ると、彼女は机に向かって仕事をしていた。
後ろから手元を覗いて驚く義勇。
「……これ」
「異国の本」
「読めるのか?」
「辞書があるからね」
琴音は本を読み、必要箇所を翻訳しているようだ。紙には琴音の字で日本語が書かれている。彼女はたまに辞書を引いたり、考え込んだりしていた。
「西洋医学も使っているのか」
「うん。使えるものなら何でも使うよ。産屋敷家のコネクションを使えば本は手に入るからね」
「こ…、こねく…しょん……」
義勇は驚く。
こんなこともしていたとは。
通りで昨夜、酔ったときに異国語がよく出ていたわけだ。最近はずっとこんな仕事をしていたのかもしれない。彼女は今もブツブツと聞き取れない言葉を呟いている。
義勇を待たせていることもあって、琴音はキリのいい章まで翻訳を進めて、紙を挟んで本を閉じた。