第25章 柱合会議
義勇は琴音に手を伸ばし、強く抱きしめた。琴音も義勇の胸に寄り添う。
「全部言ったよ。機嫌治った?」
「……ああ」
「言ってなくてごめんね」
「仕方ない」
知らなかった。
この娘がそんな戦いをしていたなんて。
「ずっと、体調悪かったのか」
「もう慣れたよ」
「これからも続けるのか」
「うん。可能性のある毒は摂取し続ける。摂取すればするだけ効果的な血清ができるから」
「……その分お前の身体の負担も大きくなるだろう」
「まあ、それはそれで」
無理するな、とは言えない。
彼女はここまで、義勇には想像もつかないほどの多大な無理をしてきたのだ。
言えない代わりに、腕の中の娘を強く抱きしめた。
しのぶは『鬼を倒すため』の毒を。
琴音は『隊士を救うため』の薬を。
それぞれ体内でずっと生成し続けてきた。
珠世の力も借りて、より強力な物へと高めていく。たとえ自分たちの命が、それによってなくなろうとも……
「お前の寝起きの悪さも、その副作用か」
「……あー、うん。そういうことにしとこう」
腕の中でクスクスと琴音が笑った。
義勇は琴音を腕の中に置いたまま、彼女の髪紐を解いた。高い位置できつく結ばれていた髪がばさりと落ちる。義勇は指で軽く髪を梳くと、琴音の首元あたりで緩く縛り直してやった。
「家の中では楽にしていろ」
「ありがとう」
「ん」
「不器用なのに、髪結いだけは得意だよね」
「いつでも結ってやる。いつまでも。ずっとだ」
――だから、死ぬな
その一言は言えなかった。
でも琴音にはちゃんと聞こえていた。
「うん。ありがとう」
彼女は花のように笑うと、義勇の背中に手を回した。
「ふふ。髪型、お揃いだね」
「そうだな」
義勇もありったけ愛を込めて、琴音を抱きしめた。