第25章 柱合会議
琴音が帰宅すると、義勇は稽古場で竹刀を振っていた。
重りをつけた竹刀で打ち込み台に向けて連撃を放っている。哀れな打ち込み台は、バキバキと音を立てながら反りくり返っていた。
……こりゃ機嫌悪いな
不死川や伊黒と揉めて早々に帰った義勇は、言葉には出さなくてもモヤモヤが溜まっているだろう。
ここはそっとしておこうと、琴音はその場を離れた。彼の安静期間も終わったのだ。怪我を悪化させるような無茶な稽古もしないだろうから、好きにさせておこうと思った。
琴音が再び玄関を出ると、庭から義勇がやってきた。
「どこへ行く」
「蝶屋敷」
「何をしに」
「……ちょっとね」
明らかに機嫌の悪い義勇。
琴音はいつも通りに答えた。
「お前、俺に話すことがあるんじゃないのか」
「…………」
「何故、お前と胡蝶は柱稽古をしない。二人で何をしている」
義勇の苛つきの理由が、ここにもあったとわかる。
「……機密事項です」
「俺にも言えないのか」
「言えなくはないけど」
「なら、言え」
「…………」
「……お前の命に関わることなのだろう。ならば尚更言え」
昨夜の琴音の発言などから、義勇はそんな気がしていた。
「帰ったら、言うよ」
「…………」
「そんなに遅くならないから」
「……わかった」
そう言うと、義勇の方を見ることなく琴音は家を出ていった。
一人で見送る義勇。持っていた竹刀を握りしめた。
聞くのが怖い。
しかし、聞かないのも怖い。
義勇は稽古場に戻り、無心になって鍛錬を続けた。
夕方少し前に琴音は戻った。
「只今戻りました」
玄関で声をかけると義勇が顔を出す。
「さあ、言え」
「……早いなぁ。少し休ませてよ」
「…………」
「着替えたらお部屋に行くよ。待ってて」
やはり義勇の顔をろくに見ない琴音。義勇は嫌な予感しかしない。
自分の隣を通り過ぎる琴音の手を思わず掴んだ。無意識だった。
琴音が驚いて義勇を見上げる。
「え、なに?」
「…………」
「……?」
「……いや」
「離して?」
「…………」
義勇はスッと手を離す。
琴音は部屋へと入っていった。