第3章 戦いの先に
「お食事をお持ちしました」
部屋の外から声がかかり、義勇は慌てて琴音から離れる。
礼を言って量の違う二つの膳を受け取った。
茶を淹れて食事の用意をしていると、琴音のお腹がぐぅと鳴った。小さく笑う義勇。
「起きろ。腹が減ったのだろう」
「んん……いい匂い……」
「起きないとお前の分も俺が食うぞ」
「やだぁ……」
もぞりと身体を動かして琴音が起きる。
「ご飯……」
「早く来い」
「はぁい」
まだ覚醒しきらない琴音が、量の少ない膳の前に座る。
「いただきます」
寝ぼけながらもちゃんと手を合わせて食べ始める琴音。義勇が驚いたのは、その食べ方の綺麗さだった。多少うつらうつらとしているが、箸の持ち方、食事中の姿勢など、子どものそれとは思えないものだ。
……こいつ、もしかして良家の娘か?
そんなことを考えながら、義勇も黙々とご飯を食べた。
殆ど昼餉に近い食事をとり、二人はお茶をすする。
ようやく琴音も目が覚めてきた。
医者が義勇の診察に来たので、琴音は自分に与えられた部屋に行くことにした。
布団を持っていけと義勇に言われ、琴音は布団と共に部屋へと移動する。
義勇の診察が終わると、琴音は屋敷から姿を消していた。
どこに行ったのだろうと義勇は首を傾げるが、別に自分たちは行動を共にしているわけではないのだと思い至り、部屋の片隅で刀の手入れを始めた。
しかし義勇は、刀の目釘を止め直しながら、無意識に琴音のことを考えていた。
黙ってここを去ってしまったのだろうか
緊急指令でも入ったのだろうか
危険なことをしていないだろうか
まだ、
助けてもらった礼を言っていない……
手入れが終わるとパチンと音をさせて刀をしまう。
障子を開けて外を見ると、空にはきれいな夕焼けが広がっていた。