第23章 上弦
義勇は彼女を抱き上げて、台所へ行く。
「水飲め」
「えー……お酒」
「もう駄目だ」
「なんで?けちっ!」
「なんとでも言え」
「馬鹿!無口!麺つゆ!」
「……言い過ぎだ」
義勇はため息混じりで琴音に水を飲ませ、自分も飲む。
……俺も、少々飲みすぎたか
久しぶりに酒を飲み、身体の熱さを自覚する。
「それ飲んだら寝るぞ」
「…………」
「? どうした?」
湯呑を持ったまま黙った琴音。
次第に彼女の瞳からぽろぽろと涙が溢れ落ち始めた。義勇はぎょっとする。
「お、おい」
「引いてるもん!義勇くん引いてるもん!やだ!うわああぁーーん!!」
「なっ、引いてない!」
「嘘だ!ドン引きしてるもん!嫌われた!だから飲みたくなかったのに!!馬鹿!!」
「……いや、嫌ってない」
「嘘だもん!義勇くんの嘘つき!」
琴音は泣きながら立ち上がって走り出す。その瞬間、ヨタついて派手に転んだ。鈍い音がした。
「痛いー!!」
「おい、大丈夫か」
「うわあぁぁぁぁん」
義勇が駆け寄るも、転んだまま泣き叫ぶ琴音。
義勇はやれやれといった感じに彼女を抱き上げた。
義勇にしがみついてしくしくと泣く琴音。
「引いてない。嫌っていない。大丈夫だ。わかるか?」
「本当?」
「ああ。驚いただけだ」
「……………」
「嫌いになるはずがないだろう」
義勇は琴音の頬に口付けをした。彼女の涙を唇で拭う。
琴音の部屋に連れていき、そっと下ろした。
「どこが痛い」
「お膝。ごっつんした」
「……これは明日腫れるかもな」
膝は赤くなっていた。
庇いもせずにモロにぶつけていた。痛いだろうなと思う。