第22章 兄と姉
「きっと、兄妹になっていたとしても、俺はお前を愛したと思う」
琴音を抱きしめたまま、義勇が呟いた。
「義勇さん……」
「血は繋がってないのだから問題はないだろう」
義勇は格好いいことを言ってみせたが、琴音は首を傾げた。
「うーん、お兄ちゃんが許すかなぁ。お兄ちゃん、私のこと可愛がりすぎて嫁にはやらんっていつも言ってたよ?」
「……………」
「それに、兄妹って認識しちゃったら、私は義勇さんのこと好きになったかなぁ……なってない気がするなぁ。兄妹ってのは恋愛対象にならないでしょ?」
義勇は杏寿郎を思い出した。
彼も琴音から兄認定されて、恋人になることを拒まれていた。
「…………」
「……怒った?」
「………別に」
義勇は琴音を抱きしめる手に力を込めた。そして、彼女に言い聞かせるかのように言った。
「いいか。お前も、どんな形であっても、出会ってさえいれば絶対に俺に惚れた」
「え、すごい自信」
「絶対だ」
「そうかな」
「そうだ」
義勇は琴音に口付けをした。
風邪などの可能性がないわけではなかったので、発熱以降義勇は琴音に唇を寄せてこなかった。久しぶりに唇が合わさる。
「だから俺でいいんだ。俺にしておけ」
そう言って見つめてくる義勇があまりにも男前で、琴音の頬が赤くなった。
「……そうしとく」
琴音は照れくさそうに視線をそらせた。その様子が可愛くて、義勇の目が熱を帯びる。
「……なあ」
「駄目。安静です」
「軽めに」
「許可できません」
「………」
「駄目ったら駄目」
「…………」
「痺れ薬と睡眠剤、どっちがいい?」
「………寝る」
遠回しに抱きたいと言われ、きっぱりと断る琴音。義勇は渋々諦めた。
ぷいっと顔を反らした琴音。
義勇はその顔をまじまじと見る。
……小さい時と同じ顔してるな。笑った顔は琴弥さんにそっくりだ……
「俺たちはずっと一緒だ」
「義勇さん?」
「二人の分まで」
義勇は包み込むように琴音を抱きしめる。
琴音も目を閉じて義勇を抱きしめ返す。
「うん。一緒にいようね」
「おやすみ」
「おやすみなさい」
口付けを交わして、眠った。
琴音も義勇も、優しい夢を見たような気がした。