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言の葉の裏【鬼滅の刃】冨岡義勇

第22章 兄と姉


「棺の前で、お兄ちゃんが凄く泣いてた。お兄ちゃんが泣いてるの見るの初めてで、衝撃的だったのを覚えてる」
「そうか。たぶんそれが、姉さんの葬式だ」
「そうだったんだ……」

「お前、俺に金平糖くれた」
「金平糖?」
「俺はもう両親もいなかったから、一人で棺の前で泣いていた。そしたらお前が来て、これあげる、と」
「………あ!」
「覚えてるのか?」
「え、あのお兄ちゃん、義勇さんだったの?」

琴音は驚いて義勇をじっと見る。

「……うーん、違うなぁ」
「…………」
「だって、すんごい可愛い子だったよ?」
「……俺が可愛くては駄目か」
「お目々真ん丸だったし」
「男は大人になれば顔は変わる」

琴音は首を傾げる。昔見た男の子と義勇とが重ならない。

「あの時は表情筋が生きてたから、今と印象が違うのかなぁ」
「……おい」

義勇は少し拗ねたような顔をした。
表情の乏しい義勇だが、確かに最近の彼は多少表情筋を動かしている……気がする。


「そのお兄ちゃん、ずっと泣いてたから、金平糖あげたの。元気になるかなって」
「そうか」
「あれは、義勇さんの一等辛い日だったんだね」
「そうだな。泣きすぎてあちこち記憶は飛んでいるが、金平糖をくれた子どもとその甘い味は、よく覚えている」

琴音は帯留めを持っていない方の手で義勇を撫でた。

「辛かったね。たった一人の肉親で、大好きなお姉さんだったんだもんね」

優しく声をかける。

「寂しかったね。よく頑張ったね。偉い偉い」

そう声をかけてもらい、義勇は目を細める。

「別に。昔の話だ」
「……うん、でも、」
「今はお前がいるから」

義勇は琴音をぎゅっと抱きしめた。

「もう寂しくない」
「……義勇さん」

琴音は帯留めを膝の上に置いて、義勇の背中に手を回した。彼のぬくもりに包まれて、胸元に頬を寄せる。

「寝るか」
「うん。これ、どうしよう」

琴音は二つの帯留めを義勇に見せた。

「お前が持っていろ。二つ一緒の方がいいだろう」
「そうだね。じゃあ預かっとく」

琴音は帯留めを二つ一緒に引き出しに入れる。

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