第22章 兄と姉
「……似てる。琴弥さんに。今まで気付かなかった」
義勇が琴音を見つめながら言う。
琴音は帯留めを握り締めて震えた。
「兄さんとだいぶ離れていたのか」
「一回りと、ちょっと」
「そうか」
義勇は自分の持っている帯留めを、琴音の手の上に置いた。二つの帯留めが彼女の手の中でカランと乾いた音をさせた。兄と姉の形見として、それぞれが持っていたものが重なった。
義勇は両手で琴音の手を包んだ。
「……まさか、だな」
「そうだね。こんなこと、あるんだ」
「琴弥さんはよく家に来ていた。俺ともよく遊んでくれた。優しい人だった」
「……………」
「姉さんとの結婚が決まったとき、俺は嬉しかった」
「……私はお兄ちゃんのことが大好きだったから、お兄ちゃんに恋人が出来たのも嫌だったし、結納の時も拗ねてた」
「そうか。あの時ずっと愚図ってたチビはお前だったんだな」
「信じられない……」
「昔、会っていたのか、俺たち」
「ごめん、義勇さんのこと覚えてない」
「……………」
「お兄ちゃんしか見てなかったもん」
「……そうか」
義勇は少し残念に思う。
「俺は覚えてる」
「私、どんな子だった?」
「赤い着物を着て、不貞腐れていた。よほど嫌だったのか、すぐに違う部屋に行ってしまった」
「そうだっけ……?小さかったから、記憶が朧気なの」
琴音は申し訳無さそうな顔をして笑う。
「だから、お姉さんの顔も、うっすらとしか覚えてない」
「仕方ない」
「美人さんだったのはなんとなく覚えてるけど、とにかく敵だって思ってたから……」
「………俺はその敵の子分か」
「うーん、多分そもそも眼中になかった」
「…………」
義勇は複雑な顔を浮かべた。
「なら覚えてないか」
「?」
「喧嘩したんだ、俺たち」
「そうなの?」
義勇はあの日を思い出した。
「俺は途中で出ていってしまったお前を追いかけていった。赤い着物が部屋に入っていくのを見て、そこを覗いた。そしたらお前が……」
「私が?」
「『あっちいけ馬鹿!』と、俺にお手玉を投げてきた」
琴音は冷や汗を流した。
「そ、それは……大変失礼しました」
琴音は昔の自分を思い出す。甘やかされて育った自分はとても我儘だった。やりかねないな、と思った。