第21章 天女
「誰にもやらない。どこにも行くな」
まだ熱があるからか、いつもより潤んだ目で琴音を見つめる義勇。琴音は義勇に布団を被せて、微笑みながら顔を寄せた。
「安心して。側にいる。……私は、あなただけのものですよ」
耳元でそっと囁く。
すると、瞬く間に義勇に布団へ引っ張り込まれた。
「わ!」
「お前も寝ろ」
「……あら、元気だね。やっぱ仕事行ってきていい?」
「嫌だ」
布団の中でぎゅっと抱きしめられた。琴音は笑いながら義勇の背中を擦ってやる。
「寝るまで一緒にいるから。ほら、寝なさいな」
義勇は琴音の首元に顔を埋めたまま眠った。
がっちり拘束されていたので、琴音はそこから抜け出すのに苦労した。
義勇がしっかりと寝たことを確認すると、寝間着に着替え、自室から布団を運んできて義勇の隣に敷いた。
熱と脈を測り、自分の布団に入る。連日の仕事で疲れていた琴音も、義勇の寝顔を見ながらすぐに眠った。
起きたとき、義勇の熱はほとんど下がっていた。義勇は起きるとすぐに「何故布団が別なんだ」と文句を言って琴音の布団へと潜り込んだ。
義勇の体調がよくなると、琴音は発熱時のことを聞いた。
「なにか体に変化はなかった?」
「特にない。だるかっただけだ」
「刀振れそうな気した?」
「……全く」
「だよねぇ。……最近炭治郎くんが『熱が出ている時の方が調子がいい』って言うの。あの子、高熱のまま平気で動いてるのよ」
「…………」
「なんだろう、あの現象は。人が動ける熱じゃないの」
「気になるのか」
「うん。………あ、気になるって、炭治郎くんがって訳じゃないよ?症状がって話ね」
「わかっている」
義勇が意外とヤキモチ焼きだとわかってきたので、琴音は先手を打って否定する。
「風邪や怪我での発熱とはやっぱり明らかに違う」
記録表に何やら書き込みながら考える琴音。義勇は、己の発熱も彼女にとっては資料の一つだったのかなと少し寂しく思う。
しかし例えそうだったとしても、彼女が献身的に尽くしてくれたことに嘘ではない訳で。紛れもなくそこに愛はあったわけで。
『紅衣の天女』が誰に対してもその行動をとるのだとしても、自分にだけはきっと特別であった。
そう信じようと義勇は思った。