第21章 天女
もう大丈夫、と言いながら琴音は薬の準備をする。義勇は嫌そうな顔をするが、どこか諦めている感じもあった。
「解熱剤は減らしてるから苦味は少しマシになったはず」
義勇は吸い飲みではなく、湯呑から薬液を飲んだ。
「……苦い」
「そう?」
「金平糖」
「はいはい」
琴音はコロンと一粒義勇の口に入れてやった。
「吐き気、痺れは?」
「ない」
「目眩」
「ない」
「うん。いいね。熱はまだ少しあるから無理はしないこと」
琴音は食器や薬をお盆に乗せた。
「また、どこか行くのか」
「ううん、側にいるよ。緊急指令が来なければね」
琴音はにこりと笑いかける。義勇はほっとした顔をする。
「風呂に入る」
「んー……、傷口がなぁ……。清拭じゃ駄目?拭いてあげるよ?」
「風呂がいい」
「……わかった。湯船は駄目だよ。沸かしてくるから、それまで寝てて」
琴音はお盆を持って部屋から出ていった。夜のため、千代はもう居ないようだ。
風呂が湧くと義勇は風呂に入る。
洗ってあげるという琴音の提案を断って、傷に気をつけながら自分で洗った。
風呂から上がると寝間着も敷布も枕布も全て交換されており、清潔な寝床に身を横たえた。サラッとした感触の布たちが気持ちいい。
「傷口、見せて」
琴音は手当をして、包帯を巻く。その手際の良さに義勇は感心した。
「はい、お終い」
子どもの頃に一度彼女の手当を受けたが、当然のことながら当時より処置も上手くなっている。そしてなにより、手当がどこまでも丁寧で優しい。
「……これが『紅衣の天女』か」
「やだ、やめてよ。本当にもう、誰が言い出したんだか。しのぶちゃんならまだしも、私が天女って」
「お前に救われた隊士は、皆…お前に惚れる」
「そんなことないでしょ」
「でもお前は、俺の女だ」
義勇はじっと琴音を見つめた。