第21章 天女
義勇が目が覚めた時、琴音は居なかったが、傍らに彼女の人形が置かれていた。貸してあげる、とでも彼女が言っているようだった。
寛三郎も隣で寝ていて、身体はだいぶ楽になっていた。
「男が人形なんて抱いて寝られるか」
そう言いながら、義勇は人形を自分の側へと引き寄せた。こてんと寝かせて目を合わせる。
「……おこげ。琴音はいつ帰ってくる」
返事などないことをわかっていながら尋ねる義勇。またうとうとし始めた。
物音で目を覚まし、自分が寝ていたのだとわかる。琴音が帰ってきていた。隊服ではなく部屋着を着ている。
「あ、起きたね。ただいま、義勇さん」
にこりと笑いかけられて、ぼんやりとした。
脳が起き始めて、自分の手の中に琴音の人形がいることに気が付く。知らぬ間に抱いて寝ていたようだ。義理は猛烈に焦りだした。
しかし琴音は人形に「私の代役ご苦労さま」と微笑みかけて、何食わぬ顔で義勇の腕からそっと受け取った。
彼女は病気時における人の奇行や失態を決して笑わない。義勇はほっとした。
「体調、どう?」
「だいぶいい」
「うん。熱もだいぶ下ってきたね。よかった」
「今何時だ」
「夜だよ。お腹すいた?お粥食べられそう?」
「………食う」
「じゃあ持ってくるね」
琴音は人形を連れて部屋から出ていった。義勇は布団の中で丸まって頭を抱える。
……あの人形、琴音の匂いがするんだ。間違えた。見られた。最悪だ……
彼が顔を赤らめて人知れず悶絶したことを琴音も知らない。
しばらくするとお粥を持って琴音が戻ってくる。お粥には細かくされた鮭と大根が入っていた。
「千代さん、鮭大根っぽくしてくれたね。良かったねぇ」
琴音がお椀によそってくれたお粥を、義勇は自分で食べる。
「美味しい?」
義勇は頷いた。
「味覚もしっかり戻ってるね。もう大丈夫かな」
食事量や様子をチェックする琴音。
義勇はお代わりをして、土鍋の中の粥を食べきった。