第21章 天女
そのまま水を飲ませてもらい、金平糖を口に入れられ、厠へと連れて行ってもらう。
再び布団に寝かせられた義勇。
「だいぶ良くなってるね」
清拭がてら、傷の消毒と確認をする琴音。
着物を直して布団をかけた。
「さて、もう一眠りして。起きたらきっと良くなってるよ」
「…………」
「どうしたの?どこか痛い?」
義勇が辛そうな顔を浮かべたので、琴音は義勇を覗き込んだ。
「また、行くのか」
「ああ……、うん。夜になったら出かけるよ」
「……そうか」
「側にいてあげたいんだけど。ごめんね」
琴音は義勇の頭を撫でる。
「…………炭治郎たちのときは、付きっきりだったくせに」
「え?」
「ずっと帰ってこなかった」
「あれは、患者が三人もいたし。瀕死の重傷だったから」
「…………」
「義勇さんは重症じゃないでしょ?寝てれば治るよ」
「治らない」
「?」
「お前が側にいないと治らない。行くな」
義勇は不機嫌になってそう言った。
彼女を困らせるのはわかってる。子どもっぽいことを言っているという自覚もふんだんにある。普段の義勇なら絶対に言わないことを口にする。
でも、側にいてほしかった。
人は身体が弱ると心も弱るのだと痛感した。
琴音は義勇の頭を撫でながら、優しく語りかけた。
「そうだねぇ。私が側にいた方がきっと早く治るよね。寂しいよね」
我儘を言う義勇を怒るでもなく、突き放すでもなく、彼の気持ちにそっと寄り添ってやる。安心感を与えるために、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「じゃあ、おまじないかけてってあげる。ほら、目ぇ閉じて」
「おまじない……」
「そう。おまじない」
琴音は頭を撫でていた手を少し下に下ろし、義勇の瞼を閉じさせた。そのまま額から顔周り、髪の生え際ら辺をゆっくり撫でていく。
まるで赤子を寝かしつけるように、そっと。
「夢の中で、会えますように。寝てる間、義勇さんが寂しくありませんように。起きたときに、穏やかな心でいられますように……」
彼女の言葉と撫でられる心地よさに誘われて、義勇は眠たくなっていく。
「おまじないかけたから。寂しくないよ、大丈夫。安心して、ゆっくり休んでね」
そんな声を聞きながら義勇は眠った。安からな寝顔を見て、琴音は静かに部屋を出ていった。