第21章 天女
夕方頃に琴音が帰宅すると、義勇はよく寝ていた。少し熱も下ってきており、脈も安定していたのでホッとした。
額の布を冷やし直し、千代にお粥を頼んで自分は湯を浴びた。
義勇の部屋で任務の報告書を書き、夜の仕事の為の準備をしていると、義勇が目を開けた。
「あ、義勇さん」
「……おかえり」
「ただいま」
義勇が身体を起こそうとした。
「こらこら、急に動かないの。血圧変動しちゃうでしょうが」
慌てて彼の元へ行く琴音。隣に座ると、義勇は手を伸ばして琴音の隊服の裾をキュッと掴んだ。
「ん?」
「…………」
「寂しかったのね」
「…………」
「よしよし」
「………別に」
強がりながらも隊服から手を離さない義勇。
可愛すぎでしょ、と琴音は思った。
「千代さんがお粥作ってくれたの。少しでもいいから食べよう?」
「…………」
「食欲ない?……でも、食べよ。少しだけ。準備するからちょっと待ってて」
台所からお粥を持ってきた琴音。義勇の身体を起こし、まずは水を飲ませる。お粥をお椀に移して少しずつ食べさせてやった。
いわゆる『あーん』である。
義勇は恥ずかしさを感じつつも、熱のせいで既に顔は赤い為、黙って大人しく食べさせてもらった。
琴音はにこにことしているが、その裏で食事量と嚥下の様子などをしっかりと観察している。
義勇はお粥の大半を食べることが出来た。
「偉い!こんなに食べられるなんて凄いよ。食事と睡眠は回復への必須事項だからね。頑張った」
琴音は嬉しそうに義勇の頭を撫でる。
「これは案外早く治りそうだね。流石、水柱。頑丈だわ」
お粥を脇に片付けながら、薬の準備をする琴音。義勇が明らかに嫌そうな顔をした。
「そんな顔しても駄目。お薬飲むよ」
「…………」
「じゃあ座薬ね。お尻出して」
「飲む」
クスクスと笑う琴音から薬を口に注がれて、苦い薬を飲み込む。最後の一口で少しむせたが、手早く口元に手拭いをあてられて大きく吐き戻すことは無かった。
……慣れてる
感心している間にササッと口元を拭かれて、咳が落ち着くように背中を擦ってもらう。
「上手に飲めたね。偉いよ」
また優しく微笑みかけられた。