第3章 戦いの先に
もう日も高くなった頃、屋敷の中を動く人の気配で義勇は目覚めた。
「ん……、ここは」
その切れ長の目をぼんやりと開いて、現状を把握しようと頭を回転させる。
ゆっくりと昨日の戦いを思い出していく。体を横たえたまま手足を少し動かして、麻痺の抜け具合を確認した。
身体はだいぶ回復しており、起き上がれそうだったのでゆっくりと身体を起こすと、自分の隣で寝ている少女に気が付いてぎょっとした。
……な、なんで、隣に?
思わず布団の端に移動し、彼女と距離を取る。自分はもう十六だ。女子と一緒に寝ることなど出来ない。
パチパチと瞬きをしながら、何故こうなったのかを考えていると「鬼狩り様、お目覚めでいらっしゃいますか」と声がかかった。
少し焦りながら「あ、ああ」と答えると、静かに障子が開く。穏やかな笑みを浮かべた女性が顔を出した。
「お目覚めになられてよかったです」
「世話になる」
「どうぞごゆるりとお過ごしください」
「…………」
義勇は少々バツの悪そうな顔をして、少女を見つめる。
「あら、一緒にお休みだったのですね」
「…………」
冷や汗が流れる。何もしてないと強く主張したかったが、口下手な彼にはそれは上級過ぎるものだった。
「別室をご用意致しておりましたが、お布団もご自分で運ばれたのですね。よほど冨岡様が心配だったのでしょう」
女性は目を細めて琴音に視線を送る。その優しい眼差しに、昨夜の二人を勘ぐっている感じはなかったので、とりあえず義勇はほっとする。
「お食事の準備を致しますが、夜月様の分はいかがなさいますか?こちらにお持ちすればよろしいでしょうか」
「……ここへ」
「かしこまりました」
「感謝する」
女性が退室すると義勇は布団からゆっくりと立ち上がる。身体を軽く伸ばしてみるが、気だるさはあるものの毒は殆ど抜けているみたいだった。
ちゃんと布団に入っていない琴音の身体を動かして、布団に入れてやる。彼女の身体はポカポカと暖かく、「……子ども体温」と義勇は呟いた。
眠る琴音の顔は本当にあどけなく、小さく開かれた口からはよだれが垂れている。そんな彼女に義勇は笑いを抑えられない。確かにこれなら家の者に妙な勘ぐりをされることもないだろう。
身支度をしようとしていた義勇だったが、少しの間、彼女の寝顔を見つめていた。