第19章 死なせない
数日後の朝、しのぶに言われた。
「少し休んでください」
「……え?」
「疲れ過ぎです。炭治郎くんたちも落ち着いてきましたし、帰宅しましょう。ここまでありがとうございました」
「しのぶちゃんだってずっと休んでないよ」
「私はここが家ですから。休むときはちゃんと休んでいますよ。琴音も家でしっかりと寝て回復してください
「でも……」
「急変などがあったらすぐに知らせます。冨岡さん家からここまではさほど遠くありませんからね」
「急変…して欲しくないけどね」
「ふふふ、そうですね」
しのぶは、琴音が義勇と住んでいることを知っている。
「このまま多忙な生活をしていると、今度は貴女が怪我人として運ばれてきそうです」
「あはは、確かに」
「それに冨岡さんもきっと限界ですよ」
「そう、かな」
「そうですよ」
しのぶは柔らかく笑った。
「薬もだいぶ作ってくださいましたし、しばらく持ちます。帰ってあげてください」
「……うん。じゃあ、お言葉に甘えて」
会いたい
琴音は強くそう思った。
本当はずっと思っていた。おそらく琴音以上に多忙な生活を送っている義勇。元気だろうか、怪我をしていないだろうか、どんな気持ちで一人あの家に居るのだろうか……。ずっと気になっていた。
それでもそれを押し殺し、今自分がやるべき事をこなしてきた。
「じゃあ、研究室片付けたら一度帰るね」
「はい」
「何かあったら遠慮なく呼んで」
「わかりました」
帰る
なんだか不思議な気がした。
今までは「帰る」といえば煉獄家だった。
しかし今、自分が帰るのは、義勇の家。
いや違う。家じゃない。義勇そのものの所へ、だ。
会いたい
帰りたい
愛しいあの人の元へ……
琴音は研究室へ行き、製薬道具を片付ける。
丸フラスコを持った時に、不意にくらりと頭が揺れた。そのまま机に手を付き、身体を寄せる。
あ、れ……
力が入らない。
フラスコを机に置いて、床に膝を付いた。
どうしたの? 変……しっかりしろ……
側にあった椅子に上体を乗せたまま動けなくなった。
早く、帰りたいのに……
琴音の意思とは逆に、頭がふわふわとして力がどんどん抜けていった。