第3章 戦いの先に
戦闘の熱が冷めてくると、体が冷えてきた。
琴音は隣の義勇にぴとっと身体を寄せた。
「へへ、冨岡あったかい」
「お前の方が温かい。子ども体温」
「子ども子ども、うっさいなぁ。あんたもまだまだ子どもでしょ!」
そう言いながら、義勇の肩に擦り寄る琴音。
ふと、彼女の眼前に義勇の羽織がうつった。
「……ねえ、冨岡」
「なんだ」
「ごめんなさい」
「?」
琴音は一度義勇から頭を離して、彼の目を見る。
「この羽織、変な羽織って言ってごめんなさい」
「……ああ、そのことか」
「大切な想いが込められてたんだね。知らなかった。ずっと謝りたかったの」
「誰かから聞いたのか」
「うん」
義勇が琴音の方を見ると、彼女は見るからにしょんぼりとしていた。
眉毛を下げて、泣きそうな顔をしている。
「別に、気にするな」
「……気にするよ」
「ちゃんと謝ったから、もういい」
「許してくれるの?」
「ああ」
義勇がそう言ってやると、琴音はほっとした表情になる。安心したように、また義勇の肩に頭を寄せる。
「俺も、殴ったから」
「あはは」
「腫れたか」
「うん。次の日、見事にね」
「………ごめん」
俯くようにして、小さな声で謝る義勇。自分でも驚く程、素直に言葉が出た。
「いいよ、大丈夫。ってか、あの時もちゃんと謝ってったじゃん冨岡」
「…………」
「はい、仲直り!へへっ!ねぇ、これで私たち、友達だよね」
「友達?」
「え?違うの?私、同期はみんな友達だと思ってるけど。あ、正しくは同期じゃないんだけどさ」
「いや、違わなくはないと思うが……、友達……?なんだか違和感がある」
「ふうん、よくわかんない。ね、今度一緒に遊ぼうよ!」
「………嫌だ」
「ええー?!なんでぇー?!!」
「子どもの遊びに付き合ってられるか」
「ぐわー!やっぱりあんたムカつくよ?」
「俺にままごとや人形遊びをしろと?」
「そんなちっちゃい子の遊びはもうしない!」
「じゃあなんだ」
「メンコと、コマ回し!」
「断る」
「えええー!!なんでぇ?!!!あ、じゃ、竹馬競争しようよ!」
琴音と話しながら、義勇は少しだけ……ほんの少しだけ笑った。
戻りつつある感覚で、少女の体温をしっかりと感じる。そして、己の心の中もじんわりと暖かくなっていくのを感じていた。