第3章 戦いの先に
琴音は鞘を拾って納刀すると、急いで義勇の所に走って戻った。
「冨岡!大丈夫?」
駆け寄ってみると、顔色はだいぶ良くなっていた。
「生きてた……よかった」
「無事か」
「うん、斬ったよ」
「そうか」
義勇もほっとした表情を見せる。先程よりは話も出来るようになっている。
「怪我、どこ?」
「たいしたことない」
「あるでしょ、あいつの爪、毒ありそうだったし」
話しながら琴音は布袋から小さな缶を取り出す。
「失礼しまーす」
そう言って、おもむろに義勇の隊服を脱がしにかかった。
「おい、やめろ」
「薬塗らせなさいよ。毒消しにもなるやつだから」
「いい。呼吸で止めてる」
「応急処置だから、やらせて。あとでお医者さんにちゃんと診てもらおうね」
義勇の言葉はお構いなしに隊服の前を開く琴音。
「うん、そんなにくらってないのね。あれだけ身体が麻痺してたのに。流石は冨岡義勇」
「……………」
「しみないと思うけど、我慢してね」
琴音は自分の手を軽く消毒したのち、傷口をきれいな布で拭いて軟膏をつけていく。彼女の小さな指が、自分の腹の上を這い回ってくすぐったい。暖かさも感じる。感覚もだいぶ戻ってきているようだ。
止血処置をしながら琴音が困った顔をする。
「どうしよう、私。冨岡抱えて山下りれない」
「歩ける」
「歩けるわけないでしょ。せっかく症状が落ち着いてきたのにまた体中に毒回して全身麻痺になるつもり?」
「…………」
「おんぶ……、いや無理だな。つぶされちゃう。はぁ……隠の人たちが来てくれるのを待ちますか」
琴音は義勇の服を整えながら、ため息をついた。
「本当はすぐにお医者さんに見せないといけないんだけど。ごめん」
「何故謝る」
「……私に力がないから」
「子どもだから仕方ない」
「もうすぐ十二だよ?」
「十分、子どもだ」
琴音は義勇の隣に、足を投げ出して座る。
「早く大人になりたい。おっきな男の人だってひょいと抱えて歩けるくらいに」
「大人になってもそれは無理だ。お前は女だ」
「あ、そっか。でもさ、おんぶしたり、肩貸したりとかは出来るようになるでしょ?」
「……どうだろうな。まあ、相手の大きさによるか」
珍しく話しをしてくれる義勇に、琴音は少し嬉しくなった。