第18章 お気に入り
「可愛いなぁ。んー、やっぱり吉祥文様がいいよね。義勇さんも持つんだから……」
ぶつぶつ言いながらあれこれ見ている琴音。よくわからない義勇は少し離れた。
すると四十代くらいの店主から声をかけられた。
「兄さん、あの娘かい。あんたが櫛を贈りたいのは」
「………まあ」
先程の様子を見られていたのか、と義勇は思った。
「可愛い恋人だね」
「………どうも」
「十五くらいかい。いやぁ別嬪さんだ」
「十七だ」
「おや、そうかい。なら結婚は来年か、その次くらいか」
「…………」
義勇はろくに返事をしないが、店主はにこにこと琴音を見つめていた。
「兄さん。櫛はな、ちゃんと選ぶんだぜ」
「…………」
「これだ、って思うやつがきっと見つかるから。それを探すんだ。あんたが選んだものならあの子はきっと喜ぶ。ちゃんと選んで、想いを込めて贈るんだ」
「……わかった」
何故か見知らぬ男から櫛選びのアドバイスをもらう義勇。琴音に呼ばれて彼女の元へと近寄った。
「これ、どう?」
琴音が嬉しそうに持っているのは扇が描かれた物だった。花柄ではなく、男性が持っていてもおかしくないものだった。ちゃんと義勇のことも考えてくれていた。
「いい、と思う」
わからない、ではなく、肯定の意を示す義勇。
琴音はにこりと笑って同じものを二枚手に持った。
「俺が」
「駄目!これは私が義勇さんに買ってあげるの」
「?」
「もらってばっかだもん。私が買ったものも持っててよ」
そう言って琴音は買いに行く。
なる程。
自分のために選んでくれるというのは嬉しいものなんだな、と義勇は思った。
そういえば琴音の二代目髪紐を義勇が選んだときも彼女はとても嬉しそうにしていた。
彼女の楽しげな後ろ姿をじっと見つめた。
「末広がりの扇柄だね。いい未来が待ってるといいね、お嬢ちゃん」
店主にそう言われて頬を染める琴音。義勇は柄の意味など知らないので少し驚いた。扇模様には子孫繁栄や結婚祝いの意味があり勿論琴音は知っている。
「末永くお幸せに」
そう言われて、琴音は「はい」と返事をした。
以前は兄妹に見られたこともあったが、今はちゃんと恋人に見えているのだな、と義勇はしみじみと思った。