第18章 お気に入り
「ありがとう」
「ああ」
お金なら私もあるのに、と琴音は思う。だが、男として自分が払いたいという義勇の気持ちもわかるので、無理に財布を出さなかった。
「あ!化粧品屋さん!新しい紅が欲しいの。見てきていい?」
「ああ」
「ちょっと待っててね!」
義勇が苦手そうな店だったので、琴音は一人でお店に入っていった。こうしていると普通の女の子だなと義勇は思う。
一人残された義勇は周りを見回した。
お向いに小物屋があって、店先を覗く。そこには綺麗な櫛が並べられていた。
……櫛、か
何気なくじっと見つめる。
似たりよったりで、正直どれがいいのかよくわからない。
……いつか贈るのか、これを
その時彼女はどんな顔をするだろうか
喜んでくれるのだろうか
自分はどんな言葉をかけるのだろうか
平和な世界で琴音と家族になる。
そんな夢みたいな事を考えた。
まだまだとてもじゃないが現実味がない。まずは鬼を倒さねば。
そう思うと無意識に腰元の日輪刀に手が伸びる。が、今は帯刀していないので義勇の左手は空を切った。
義勇が店から離れて化粧品屋の前に戻ると、丁度琴音も店から出てきた。いくつか買い物をしたようで、風呂敷を持って至極ご機嫌だった。
「お待たせ!」
「嬉しそうだな」
「うん!ふふふっ」
鬼殺隊の柱とて、現場を離れれば年頃の女の子だ。嬉しそうにする琴音を見て、連れてきてよかったと義勇は思った。
「ねえ、義勇さん」
「なんだ」
「お揃いの手拭い買おうよ!」
「…………」
「ねーねー」
「…………」
「私とお揃いは嫌?」
「……別に」
義勇は明らかに乗り気ではない。
お揃いと聞いて、花柄か何かを想像する。手拭いなんて無地でいいと義勇は思った。
先程義勇が櫛を見ていたいたお店に一緒に入る。
琴音が嬉しそうに手拭いを見ているのを、後ろから見守った。
彼女は真剣に選んでいる。