第18章 お気に入り
二人で並んで街を歩く。二本の日輪刀が入った刀袋は義勇が小脇に抱えている。
派手じゃないのかと義勇が思っていた琴音の着物も、街を歩く女性たちは皆着飾っているので特に浮いてしまうことはなかった。
服装に疎い義勇は、周りの様子を見ながら今の流行りを知る。でも、どんなに綺麗な服を着た女性を見ても、琴音が一番可愛い。そう思った。
「何か欲しいものがあったの?」
歩きながら琴音は義勇に聞いた。彼から街へ行きたいなんて言うのは珍しいから。
「棚。お前の」
「え……、私の?」
義勇はコクリと頷いた。琴音は驚いた。なにか義勇の買い物があるのだと思っていたから。
嬉しくて思わず義勇に飛び付いて、刀を持っていない方の腕に己の腕を絡める。
「……ありがとう」
「ああ」
歩きにくいなと思うが、義勇は何も言わない。
琴音はそのまま義勇と腕を組んで歩く。
「自分の物で何か欲しい物はないの?」
「ない」
「服とか」
「別に」
「物欲ないねぇ」
……欲しいものは手に入った
義勇は、自分の隣を歩く娘を見てそう思った。
「何か欲しいものがあれば、買えばいい」
「うん!義勇さんもね」
琴音はにこにこと嬉しそうに笑った。二人で街を歩いたことは何度もあるが、この関係になってからは初めてなのだ。なんだか不思議な感じがする。
楽しい。
二人は心底そう思った。
家具屋で棚を見る。
いくつか見て、「これ」と琴音は指を指した。流石、即決の琴音。
選んだのは可愛い装飾がされているものではなく、シンプルな小めの棚だった。
「これでいいのか」
「うん。あの部屋にはこれが合いそう」
義勇の家はがっつり和風建築である。洋風のものは確かに合わないかもしれない。
「わかった」
「あ、私が買うよ!」
「いい」
義勇が棚を持って店主のところへ行く。琴音が止めてもお構いなしだ。
結局義勇が支払い、棚は取り敢えず後で取りに来ることにして店の隅に置かせてもらった。