第18章 お気に入り
琴音の部屋を覗くと、完全に二度寝モードに突入していた。よくこんなに寝られるなと逆に感心する。
布団の側に座り、頬を突いてみた。
「んー……」
少し身じろぎする琴音。
すると、彼女は何かを探すように手を伸ばした。何を探してるんだ?と首を傾げる義勇。伸ばされた手は、布団の上をパタパタと動いている。
「んー、……あれぇ…どこ?……おこげ…」
「おこげ?」
義勇が少し驚いた顔を見せた。
おこげ?何のことだ?
ご飯のおこげか?
飯の夢でも見てるのか?
ぽかんとしながら琴音を見つめる義勇。
そして、あることに気付いて肩を震わせ始めた。義勇が珍しく笑っている。
……もしかして、あいつか?
義勇は声を潜めて笑いながら、義勇が昨夜布団の上に置いた人形を見つめた。義勇がいつも熊だと言う、焦げ茶色の犬。おそらくあの犬の名前が「おこげ」なのだ。
おこげ……
その名付けの珍妙さに、義勇は笑えてしょうがない。
おこげ、て。
ジワジワくるやつだ。
もっと可愛い名前をつけてやればいいのに。
何故、おこげ。
意外やら、おかしいやらで、どんどんと笑いが込み上げてくる義勇。ツボにはまったようだ。琴音が寝ているのをいいことに、口を抑えながらくくくと笑った。
「ほら、おこげだぞ」
義勇がひょいと人形を取って琴音に持たせてやると、彼女は嬉しそうに抱きしめた。やっぱりな、と思う。
「子どもか」
笑う義勇が琴音を見つめながら言った。
「お前、昨晩俺に抱かれて大人の女になったんじゃないのか」
琴音は人形を抱きしめたまま安心したようにまた眠る。その寝顔はあどけないものだった。
「全く……」
義勇はやれやれといった感じに立ち上がった。
あと少し、寝かせてやるか
昨日の疲れと身体の痛みが、まだ残っているのかもしれない
しっかり寝かせてやってくれ、おこげ……
琴音を眠りを人形に任せて、義勇は部屋を出ていった。