第17章 同じ時を※
「義勇さん、どうしたの?」
義勇は何も言わずに琴音の首元に顔を埋めた。腕にきゅっと力を込めて、顔を寄せる。
「具合悪くなっちゃった?」
心配そうな琴音の声に、義勇はふるふると首を横に振る。
「じゃあ、何?……あの、恥ずかしいんだけど」
義勇は無言でくっついたままだ。琴音は片手で義勇の頭を撫でながら手桶に手拭いを浸す。
「身体、拭いてほしいの?」
「もう拭いた」
「そっか。私、お腹の石鹸落としたいな。これじゃ出来ないよ?」
「…………」
「どうしたの」
「……………」
「まさか、もう一回したい、とか?」
琴音が青ざめた。
「そんなことしない」
「流石にご勘弁願います……」
琴音に縋るように身を寄せる義勇。なぜこんな行動をしているのか、自分でもよくわからない。
ただ、初めてのまぐわいを終えて、痛みを頑張ってくれたこの少女がなんだか尊い生き物のように思えたのだ。そして、自分よりだいぶ小さなその体が、儚く消えてしまいそうな気がして、思わず抱きしめてしまった。胸が張り裂けそうなほどに痛かった。
「お前は俺の、この世で一等大切な女だ」
「義勇さん」
「大切にする。一生。絶対に大切にする。俺の全てをかけて。誰にもやらない。俺が守る。お前は俺だけのものだ」
言葉が下手な義勇は、うまくまとめられずにいるものの、珍しくいろいろと喋った。
琴音は首元にくっついている義勇に頬を寄せた。嬉しそうに微笑んでいる。義勇の言葉から、大きな愛をしっかりと受け取って彼に寄り添った。
「ありがとう、義勇さん」
「うん」
「あのね、私、幸せだよ」
琴音にそう言われて、義勇も気が付く。
そうだ、幸せなのだ。この胸の痛みも切なさも、この子への愛情も全て。全部が幸せへと帰結するのだ。
「俺も、幸せだ」
義勇は溢れそうになる涙を堪えながらそう呟き、琴音の頬へ唇を寄せた。
そんな義勇を見ながら、琴音の中で薄々思っていたことが確信へと変わる。
……間違いない
この人、絶対にものすっごい甘えん坊だ……
そんなことを思われているとは露知らず。
義勇は嬉しそうに琴音の首元にすりすりと頬を寄せていた。