第16章 一緒に
義勇の家に付くと、彼女の部屋に荷物を下ろす。琴音は荷を解く前に、義勇に向けて頭を下げた。
「これから、お世話になります。よろしくお願いいたします」
畳に手を揃えて頭を下げながら、あれ、これじゃまるで嫁いできたみたいだなと思い、少し顔を赤らめた。
顔をあげると義勇も少々頬を染めており、同じことを考えていたのかなと思う。
義勇は琴音の目の前に胡座をかいて座った。
「ここはもう、お前の家だ」
「うん」
「必要なものがあったら遠慮せずに言え」
「わかった。ありがとう」
義勇は穏やかに笑いながら、スッと両手を広げた。
琴音は少し戸惑ったが、おずおずと義勇の胸に身体を寄せた。義勇にぎゅっと抱きしめられる。
「やっと、お前を手に入れた」
「冨岡……」
「…………違う」
「え?」
「“冨岡”じゃなくて…、」
言いよどむ義勇に、彼の言いたいことがわかって琴音はくすっと笑った。
「義勇…さん……」
頬を染めて、義勇の腕の中で琴音がそう呼んだ。とてつもない愛おしさが義勇の中に巡り、義勇は嬉しそうに彼女の首元に顔を擦り寄せた。彼の事をそう呼ぶ人間はほとんどいないが、誰に呼ばれるより、琴音に名で呼んでもらえることを嬉しく思った。
「なんで、さん付けなんだ」
「え、だって、年高だし。呼び捨てはちょっと……」
「今更何を」
「う……、まあ、そうなんだけどね」
くすくすと笑い合う。
「来てくれてありがとう、琴音」
「こちらこそ。ありがとう、義勇さん」
「好きだ」
「……私も」
義勇に優しく顎を持ち上げられ、口付けをされた。
会えなかった隙間を埋めるかのように、甘くとろけるような口付けをしていたが、寛三郎がトコトコと指令を持ってきたことで二人はバッと離れた。
指令を聞くと「お前は今日は休みだろう。ゆっくりしてろ」と言って、義勇は部屋から出ていった。
琴音は胸のドキドキを抑えられないまま、荷物の整理を始めた。
仕事に出かける義勇を玄関で見送る琴音。
「いってらっしゃい。ご武運を」
「いってくる」
義勇は琴音の額に口付けを落として、夜の中へと出発していった。
……これは、この先、心臓がもたないかもしれない
琴音は玄関で一人、真っ赤な頬を抑えた。