第3章 戦いの先に
しかし、義勇の口に水がうまく入らない。口に力が入っていないため、横から漏れてしまうのだ。
それでも少し入った水でなんとか薬を飲み込もうと、義勇は麻痺でうまく動かない喉を動かした。
「むう……うまく飲めないね。薬、喉にひっかかってるでしょ」
琴音はその様子を見て、躊躇うことなく水筒を持ち上げた。
「ごめんね、冨岡」
そう告げると、水を自らの口に含み、その水を義勇に口移しで飲ませた。
「……っ!」
驚く義勇。
驚いたまま、口に入れられた水をごくんと飲み込んだ。「ぷはっ」と色気も何もない音をさせて琴音が口を離す。薬が喉を通って体内へと落ちていくのがわかった。
「よし、ごっくんできたね。えらいえらい」
「……なにを」
「もういっちょ」
また水筒の水を含もうとする琴音に慌てる義勇。
「もう、いい。飲んだ」
「駄目。水分多めにとらないと、お腹の中でちゃんと溶けない」
「いい」
「うるさい、黙っておとなしくしてろ」
問答無用で、再び口移しで水を飲まされる。麻痺が全身に回っているため、義勇は抵抗できない。注がれた水を飲む。
その水はただの水であるはずなのに、なぜかほんのり甘く感じられた。苦い薬はなんの味もしなかったのに。不思議な感覚だった。
口を離すと琴音は羽織の袖で義勇の口元をそっと拭き、己の口も乱暴に拭った。
義勇の首から手を離し、身体を木にもたれかけさせる。
「これで楽になるといいけど」
そう言いながら、琴音はもう意識は鬼に向けている。
義勇を探してうろうろしている鬼。こんなに音をさせていても琴音たちに気付かないところをみると、たいした鬼じゃないのか。
「やっかいなのは、毒なんだね」
「吐き出して…、霧に……」
「神経毒を吐き出して、それが霧状にもなって飛んでくるのかな?わかった、吸わないように気を付ける。他の主な攻撃は?」
「爪……伸びる」
「爪ね。伸びるなら間合いを大きめにとって警戒するよ」
少ない言葉で理解してくれる琴音。
話している間も、手首で脈をとってくれているようだ。
「下、顎……」
「なるほど、下顎ね」
琴音は立ち上がる。
「情報ありがとう、冨岡。脈、強くなってきてるよ!頑張れ!」
そう言うと、鬼に向かって少女は走っていった。