第15章 星空の下で
「ねえ、冨岡」
「なんだ」
「私は冨岡の恋人になったの?」
琴音がやや戸惑いながら義勇に聞いた。
「それは……」
「違うの?」
「お前が、それでいいのなら」
「いいよ?」
「……あのな。恋人になるってことは、」
そこまで言って、義勇は言葉を止める。少し言い淀んだ。
「ん?なに?」
「俺のものになるということだぞ」
「………ん? ――…っ!!」
琴音は義勇を見ながら首を傾げていたが、理解したのか頬を染めて慌てて目をそらした。
「…………」
「そう警戒するな」
「……別に。大丈夫だもん」
虚勢を張っているが、明らかに動揺している琴音。そんな彼女も可愛いなぁと思う。
「俺は焦っていない。いきなり襲ったりはしないから安心しろ」
義勇は落ち着かせるように琴音のおでこに口付けを落とした。よしよしと頭を撫でてやると、琴音も落ち着いて嬉しそうに笑った。
「私、帰るね」
「……うん」
義勇は腕を離し、琴音は立ち上がった。
「また来るよ」
「待っている」
琴音は荷物を抱えて駆け足で帰っていった。
義勇は仕事の準備をしながら、昨夜からのいろいろな琴音を思い出した。真剣な顔、照れた顔、焦った顔、嬉しそうに笑う顔……
それを、ようやく手に入れた。
義勇もまだ若干信じられないでいる。昨夜もあまり寝られなかった。彼女からの行動で…というなんとも情けない経過を辿っての成就となったが、嬉しい。とにかく嬉しかった。
しかし、己の行動はいきなり彼女を不安にさせた。剣術の稽古に明け暮れて全く恋愛事をしてこなかった義勇は、この先琴音と付き合っていけるのか心配になった。
だが、手放す気は毛頭ない。
失敗しながらでもいい。
ゆっくり進んでいけたら、それで。
義勇はそう思いながら仕事に出かけた。