第15章 星空の下で
「わあ、綺麗に見えるね!」
琴音に連れられて、義勇は屋根の上に来ていた。二人は並んで座り、星を見上げた。
『星が見たいな。一緒に見よ?』
それが琴音の“お願い”だった。
星を見つめる琴音の表情は穏やかで、彼女の目には沢山の星が映り込んでいる。寒くはない季節なので、たまに吹く風が心地よく二人の髪を揺らした。
「ねえ、あの大きな赤い星。杏寿郎さんかなぁ」
星を指さして、声をあげる琴音。
「前からある」
「でも、きっとそうなの!」
義勇は片膝を立てて座り、琴音は両膝を抱えて座っている。
「……あ」
「わ!流れ星!ね、見た?凄いっ!」
琴音は声を上げて、きゃっきゃと子どものように喜ぶ。
「こっちに落っこちて、会いに来てくれたらいいのにね」
琴音は抱えた膝の上にちょこんと顔を乗せ、目だけを空に向けた。
「また流れないかなぁ……」
小さく呟いて星を眺める。
静かな夜が二人を包み込んでいた。
「ねえ、冨岡」
「なんだ」
「ありがとね」
義勇が琴音に目を向けると、彼女はいつの間にか空ではなく義勇を見ていた。
「さっきも聞いた。酒ももらった」
「あはは、お酒は師範からだよ。よくわからないけど、いいお酒みたい。冨岡ってお酒飲むの?」
「多少」
「へえ」
「お前は」
「生憎、成人しておりませんので」
「飲んだことくらいあるだろう」
「…………」
「弱いのか」
「………弱いです」
琴音は悔しそうにそう言った。
「飲めそうなんだがな」
「お酌専門です。でも宴会の雰囲気は好き。皆で楽しくわいわいしてさ。あっちこっちに笑顔があるの」
杏寿郎たちとよく飲んでいたのかなと、義勇は思った。
「俺の酌もしてくれるか」
「冨岡と飲むのは、まったりした飲みになりそうだね」
「そうだな」
「それはそれで、いいよね。今度飲もっか。私はお茶だけど」
話しながら、琴音は不意に気持が高ぶった。
この先なんてあるのだろうか。明日もわからない自分に、“今度”なんてものは果たして訪れるのだろうか……
琴音は義勇をじっと見つめた。
後悔はしたくない。
その想いが彼女を突き動かした。