第14章 修行
風呂から上がると、琴音は隊服に着替えて荷物を纏め始めた。
「今から帰るのか。もう遅いぞ」
義勇が部屋の戸を開けて、琴音に声をかけた。風呂上がりの彼は部屋着を着ており、髪も結んでいない。手入れのされていない髪がぴょこぴょことはねていた。
時刻は深夜を回っている。
風呂敷を包む琴音の手が止まった。
琴音は座したまま義勇の方に身体を向け、両手を付いて頭を下げた。縛られていない彼女の髪も、畳の上にはらりと落ちた。
「稽古を付けていただき、ありがとうございました」
「…………ああ」
「稽古だけでなく、他にも沢山助けていただきました。みっともない所も多々お見せして、お恥ずかしい限りです」
「気にするな」
琴音はスッと顔を上げた。
その表情は少し寂しそうだが、穏やかだった。ここに来たときのような辛そうな感じはない。
「これでやっと、前に進める気がするよ」
「……そうか」
「ありがとう」
そう言って琴音は、以前のようににこりと笑った。義勇がずっと見たかった、彼女の笑顔がそこにあった。
「……稽古は終了。私は炎柱になります。だから、帰るよ」
義勇は言葉が紡げなかった。
部屋に少しの沈黙が流れる。
義勇は俯き、琴音はそんな義勇を見つめていた。
「ね、冨岡」
琴音は明るい声で呼びかける。義勇が琴音に目を向けた。
「一つ、お願い聞いてくれる?」
首を傾けて、柔らかく笑いながら琴音は義勇にそう言った。