第14章 修行
夕餉が終わってからも二人は技について話し合う。違う呼吸を使う琴音の発言は義勇にとっても面白いもので、極めたと思っていた技にもまだまだ先があると思えて楽しかった。普段口数の少ない義勇も彼女につられてよく喋った。
かつて親友と語り明かした修行時代を思い出す。
「あ……、そろそろ帰らなきゃ」
「もう暗い」
「でも、」
「泊まっていけ」
「や……、うーん」
琴音は少し考える。
「やっぱり帰るよ。昨日泊めてもらってるし」
「…………」
「身体もだいぶ回復したから、走って帰る。大丈夫だよ」
「わかった」
義勇には引き止める理由がない。体調面での不安はあるが、彼女ももう子どもではないのだ。しかも相当な熟練者。道中何かあるとは考えにくい。前に無理やり送った時も、結局手を出しそうになってしまったので彼女は警戒しているかもしれない。
「明日また朝から来てもいい?」
「ああ」
「冨岡が仕事でも、道場借りちゃうね」
「無理はするな」
「うん」
琴音は部屋に戻り、稽古着の上に黒の羽織を着て出てきた。
「隊服とか荷物とか、少し置かせてもらえるかな」
「構わない」
「ありがとう。じゃあ、お邪魔いたしました。おやすみなさい」
琴音はしっかりとお辞儀をして屋敷を出ていった。
彼女の居なくなった家は、灯りが消えたように静まりかえった。ついこの間までこれが当たり前だったのに、心にぽっかりと穴が空いたみたいな寂しさを覚えた。
今宵は仕事がない。
こんな夜こそ仕事があれば気持ちが紛れるのに。
そんなことを考えながら義勇は布団を敷いた。
琴音の回復度は、身体も心も、まだ万全には程遠い。
自分が彼女の支えになってやりたい。そう思うものの、義勇はどうすればいいのかがよくわからない。
……俺にできることは、稽古の手伝いをしてやることと、見守ってやることだけ、か
布団の中でころりと寝返りを打つ。
夜に寝ることの少ない義勇は、なかなか眠れない夜を過ごした。
一方、義勇のそんな想いなど全く知らない琴音は、無事に煉獄家に帰宅し、自分の慣れ親しんだ布団で爆睡していた。