第14章 修行
琴音は目を閉じて義勇の水の呼吸を思い浮かべる。壱、弐、参……、一つ一つを思い出しながら頭の中で動きを追う。何度も何度も繰り返してイメージをより鮮明にしていく。腕の動き、足の運び、刀の軌道を細部まで思い描いた。
夕方過ぎに義勇が帰宅した。
そんな彼をすぐに捕まえる琴音。技の細かい点を質問し、義勇も丁寧に答えた。
「ふむふむ、ありがと。わかった」
「他は」
「あとさ、冨岡。伍ノ型ってさ……」
「干天の慈雨か」
「うん。なにあれ」
「なに……とは」
「どういう時に使うの?だってあれだと反撃に備えられないし、一撃必殺って感じの技でもないよね」
「干天の慈雨は相手が頸を差し出してきた時に使う技だ。斬られたときに殆ど痛みを感じないらしい」
「………は?」
琴音は驚いてポカンとした。
「頸を差し出してきた時?鬼が?無抵抗で?」
「そうだ」
「………冨岡、使ったことある?」
「ない」
「だよね」
水の呼吸は確かに型の数が多めだが、そんな技が存在するとは。
「そっか」
琴音は少し考える素振りを見せた。一見無駄な型のように思える“干天の慈雨”……
しかし。
「望みを託したのかな。型に」
琴音はぽつりと呟いた。
「己の行動を悔いて、頸を斬ってくれと差し出してくる鬼もいるんだって思ったのかもね」
「…………」
「慈愛に満ちた優しい呼吸なんだね」
「………そう、かもな」
「冨岡にぴったり」
そう言って琴音は小さく笑った。
……どこがだ。どこまでも優しいのはお前の方だろう
干天の慈雨に関してそんなに深く考えたことがなかった義勇は、切ない程にそう思った。
「もし私が鬼になったら、冨岡が斬ってね」
「…………ああ。痛くないから安心しろ」
「冨岡が鬼になったら、私が不知火で斬ったげる。痛いよ」
「干天の慈雨じゃないのか」
「まだ使えないもん」
「……なら、使えるようにちゃんと教えないとな。痛いのは嫌だ」
義勇は琴音の頭をぽんと撫でた。