第14章 修行
昼過ぎになり、琴音は目を覚ました。
いつもは起床後布団の中でしばらくころころとしているのだが、見慣れない天井と布団にまだ覚醒仕切らない脳を起こそうとする。
「……うぅ、頭痛い……」
泣きすぎたせいか、猛烈な頭痛に襲われる。体を半身起こしてみるが、くらりと目眩がした。
……何これ、私、どうしちゃったの?
こめかみを抑えながら再び布団に倒れ込んだ。
ぼんやりと天井を見上げていると、部屋の外から声がかかった。
「起きたか」
うん、と答えると静かに扉が開き、義勇が入ってきた。
「……冨岡、ごめんね」
「気にするな」
「迷惑かけた」
「別に」
義勇は布団の横に座った。
「この部屋は勝手に使え」
「お布団も準備してくれたの?」
「通うより、楽だろう」
「ありがとう。でも帰れるときは帰るから。迷惑かけちゃうし」
「好きにしろ。俺はどちらでも構わない」
琴音はこの家に泊まることに抵抗があるようだが、もう寝てしまったわけだし、今更な感じは否めない。
「具合、悪そうだな」
「頭痛い。泣きすぎた」
「それもあるが、疲労と栄養失調だ」
「うん……一気に出たのかも」
「まだ寝てろ」
「ごめんなさい。情けない……」
「いいから休め」
琴音は布団の中でもぞもぞとした。羽織を脱ごうとしているようだ。うまく脱げなくてよろよろと半身を起こす。ゆっくり羽織を脱ぐと、義勇が受け取ってシワを伸ばして衣紋掛けにかけてくれた。
「ありがとう。……ごめんなさい」
上着の釦を外しながら俯く琴音。また彼女の目に涙が溜まる。ズビッと鼻水をすすりながら脱いだ上着を横に置いた。
そのまま顔を腕で隠しながら、琴音は涙を流す。シャツに涙が吸われていった。
「……っ、ごめん……私、ダメダメだぁ」
義勇は無言で彼女の背中を撫でる。
「一度泣いちゃうと、止まんないね。もうやだ」
琴音はシャツの袖で何度も何度も涙を拭った。
「大丈夫だ。お前が泣き虫なことは知っている」
「え、なんで?」
「……煉獄が、言っていた」
「どうして杏寿郎さんと冨岡がそんな話するのよ」
涙で光る目で義勇を見つめる琴音。義勇は返答に困る。
「目、腫れてる。冷やすものを持ってきてやる」
義勇は誤魔化すように立ち上がって、部屋から出ていった。